「財政破綻論者」は根本的な「事実誤認」をしている

中野 実は、なぜこんなことになるのか、「国債金利が高騰する」「財政破綻する」と言い続けてきた経済学者もまともに説明できていません。いや、説明できるはずがないんです。というのは、彼らが根本的な「事実誤認」をしているからです。

――事実誤認ですか?

中野 ええ。あなたは先ほど「民間の金融資産(預金)が豊富にあるから、銀行は国債を引き受けることができる」とおっしゃいましたね? つまり、銀行が国債を買う原資は民間が銀行に預けている金融資産だというわけです。そして、政府は、国債を発行することで民間の金融資産を吸い上げて、それを元手に財政支出を行っているのだから、国債を発行すればするほど民間の金融資産は減ると考えているわけですよね?

――そうですね。

中野 しかし、そこが決定的な間違いなんです。事実は逆で、「国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える」んです。

――ちょっと理解できません……。「国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える」なんてことがあるわけないじゃないですか?

中野 しかし、それが事実です。理解できないのは、あなたが「貨幣とは何か?」を正しく理解していないからです。もっとも、主流派経済学も貨幣について正しく理解していません。さきほど、「世界中の経済学者や政策担当者が受け入れている主流派経済学が大きな間違いを犯していることを、MMTが暴いてしまった」と言いましたが、このポイントがまさにそれなんです。

 MMT(Modern Monetary Theory)は、その名にmonetaryとあるように、「貨幣」から出発する理論です。現代の世界では、私たちは、単なる紙切れにすぎない「お札」を「お金」として使ったり、貯め込んだりしています。単なる紙切れの「お札」が、どうして「貨幣」として使われているのか? 資本主義経済で「貨幣」がどのように機能しているのか? それを解き明かしたのがMMTです。

 そして、「貨幣とは何か?」を理解すれば、国家財政について正しい認識をもつことができます。さきほどの「国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える」ということも、それが当たり前のことだと理解できるはずです。

――では、MMTは「貨幣」をどう理解しているのですか?

中野 かなり遠回りの説明になりますが、付き合ってくれますか?

――もちろんです。

(次回に続く)

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中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。