「AKIRA」に描かれているのは
昭和の時代の日本

 個人的なことを言わせていただくと、筆者は「AKIRA」の30年来のファンで、今も本棚には子どもの時に買った全巻が並んでいる。生まれてはじめて1万円近い金を出して映画のビデオカセットを買ったのも「劇場版AKIRA」だった。

 そういう「AKIRA」をこよなく愛する人間からすれば、作品内で描かれているネオ東京の姿と、令和日本の姿が重なって見えるのはなんら驚くことではない。むしろ、ソックリになるのは当たり前なのだ。

 キーワードはズバリ、「昭和」だ。

 ファンならば常識だが、「AKIRA」は昭和の世界観で描かれたSFだ。2019年という設定ながら、登場するのは高度経済成長期に多くあった長屋のような日本家屋や、ヘルメットにゲバ棒を持った学生運動のようなデモ隊、多くの爆破事件を起こした新左翼を連想させる反政府ゲリラ、割烹着姿の女性…などなど「ザ・昭和」という描写であふれている理由を大友氏は、NHKの番組で以下のように述べている。

《漫画の『AKIRA』は、自分の中では、世界観として「昭和の自分の記録」といいますか。戦争があって、敗戦をして。政治や国際的ないろいろな動きがあり、安保反対運動があり、そして東京オリンピックがあり、万博があり。僕にとって東京というのは昭和のイメージがものすごく大きいんですよね》(NHKオンライン 2018年12月14日)

「AKIRA=昭和の世界観」と考えると「予言」の正体もわかってくる。

 例えば、オリンピック。今でこそ日本人繁栄の象徴のように思われている1964年の東京オリンピックだが、実はそれは権力者が歴史を上書きするのと同じで、当時はそんなイメージはなかった。むしろ、開催直前までそれほど盛り上がらず、復興などもっと他に金を使うべきだとか、戦時中のような過度な国威発揚につながるなんて反対の声があった。

 1954年生まれの大友氏は、そんなカオスな五輪ムードを実体験として知っている。それが「AKIRA」作中の「中止だ中止」に現れている、と考えれば特に驚くような話ではないのだ。

「伝染病」も然りだ。1964年1月、「清潔なオリンピック」を掲げた厚生省は予防接種などの伝染病対策を打ち出した。が、6月には集団赤痢が相次いで発生。開催直前の8月には外国人がコレラで死亡もしている。まさにWHOに非難されてもおかしくない体たらくだったのだ。そこに加えて、問題の描写がおさめられた「AKIRA」の第3巻が出版された1986年8月、現実の昭和の日本でも今回の新型コロナにも通じる社会パニックが起きている。

 カンのいい方はお分かりだろう。エイズだ。