新型肺炎,トイレットペーパー,品切れトイレットペーパーなどの紙製品が店頭から消えています Photo:Diamond

新型肺炎の感染拡大に関する「デマ」により、トイレットペーパーが店頭から消えた。「在庫は十分にある」とメーカーは言い、「冷静に行動しろ」と政府は言うが、本当にトイレットペーパーは足りているのか。実のところ、問題は複雑である。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)

皆が合理的なのに皆ひどい目に遭う
「合成の誤謬」状態

 経済を理解するには、温かい心と冷たい頭脳が必要である。拙稿「マスクの高値転売は不愉快だが、禁止できない理由」と共通するが、本稿では筆者はあえて温かい心よりも冷たい頭脳を優先させて考察してゆく。読者の温かい心が不快になるかもしれないが、あらかじめご了承いただきたい。願わくは、読者にも冷たい頭脳の訓練の機会と捉えていただければ幸いである。

 本稿のもう一つの主題は、「皆が正しいことをすると、皆がひどい目に遭う」という「合成の誤謬(ごびゅう)」である。例えば、劇場火災の時に全員が出口に向かって走ると全員がひどい目に遭うようなことだ。

 この場合、各自が(倫理的にはともかく、自己の利益の最大化のために)合理的に行動しているため、劇場主が「走らないで」と要請しても、なかなか守ってもらえない。それが問題を難しくしているのである。

トイレットペーパーを
買い占める人の行動は合理的? 

 マスクが足りない状態が続いている。これは、新型肺炎の感染拡大によって需要が急増したので、本当に足りないのだろう。加えて「仮需」も発生している。「マスクが足りなくなるといけないから、多めに買っておこう」という消費者の買い注文である。それにより、本当にマスクが不足しているのだ。