湖北省武漢の病院Photo:Reuters

――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

***

 米国人の自宅にある薬の多くは、中国製の材料を使用してインドで加工されている。新型コロナウイルスのせいで中国の多くの業界が依然、休止状態にあるが、製薬業界に対するその影響が今、明確になりつつある。

 米国の後発医薬品の約4割を供給するインドが今週、26種類の医薬品成分とそれらを使用した医薬品の輸出を禁止すると発表した。それには一般的な抗生物質薬のほか解熱鎮痛剤「タイレノール」の有効成分なども含まれる。これに先んじて、米食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で既に医薬品に不足が生じていると警告した。具体的にどの医薬品が不足しているかは言及しなかったが、代替品はあると述べた。

 コロナウイルスの世界的流行の可能性に備える米消費者や企業にとって、これは懸念すべき新展開だ。米労働者の健康は今や、稼働停止中の中国の製薬工場がいかに迅速に操業再開できるかに一部かかっているということだ。世界の医薬品サプライチェーン(供給網)は非常に複雑で、大手メーカーでさえも使用する全原材料の原産地を必ずしもたどれないと認めるほどだ。したがって、実際どの程度の影響があるのかを推測するのは難しい。ただ、さまざまな証拠を照らし合わせると、中国の工場の閉鎖が晩春まで続けば、製薬会社は幅広い製品について深刻な問題に直面し始める可能性がある。

 一部の医薬品については既に問題が顕在化している。バーンスタイン・リサーチによると、一部製薬会社では、コレステロール値の抑制に使用されるスタチンなどの薬剤の材料の価格が40%以上上昇している。英紙フィナンシャル・タイムズが先月報じたところによると、インドの製薬会社はアセトアミノフェンに必要な基礎原材料の調達に苦労している。アセトアミノフェンはタイレノールの有効成分で、今週発表された禁輸対象品に含まれている。

 抗生物質薬はとりわけ供給不足にさらされかねない分野だ。国連のデータによると、中国は2018年の基礎抗生物質の出荷額が34億ドル(約3600億円)相当と、断トツで世界最大の輸出国となっている。インドの同年の抗生物質輸入額は14億ドルと世界最大で、8割近くを中国から購入している。インドはその多くを医薬品化し、小売り向けに輸出している。2018年の輸出額は15億ドル相当と、イタリア、スイス、ベルギーなどのその他の主要輸出国とほぼ同水準だ。

 朗報は、世界的な大手製薬会社は相当な在庫を確保している場合が多いことだ。中国の混乱が向こう2カ月で緩和すれば、深刻な供給不足は回避できる可能性が高い。バーンスタイン・リサーチが2月下旬に業界に詳しい関係者にインタビューしたところ、在庫はおおむね数カ月は持つと述べたという。また、4-6月期終盤か7-9月期初めごろまでは大幅な不足には陥らない可能性が高いという。

 世界的な公衆衛生危機に際した供給不足の恐れでさえも、グローバル化のイメージを悪くする。今回の場合、恐らくそれは妥当だろう。

(The Wall Street Journal/Nathaniel Taplin and Charley Grant)