なぜ私がみなさんにそのようなことをお伝えしたいのか、と思われるかもしれません。私は、先ほど述べたように医師であると同時に、経営者、コンサルタントとして「3足のわらじ」を履くビジネスパーソンでもあります。外科医としてキャリアをスタートし、昼夜を問わず手術や急患で眠る暇もないほどの毎日を過ごしたあと、一人でも多くの命を救うためにはもっと根本的に病気の発生要因やメカニズムを知る必要があると感じ、大学院の関係機関で病理専門医(がんの診断を専門にする医師)として働き始めました。約10年間、第一線の医師として現場に立ったあと、「医療機関の経営」を根本的に改革することに興味を持ち、医師として働きつつ慶應義塾大学大学院(慶應ビジネス・スクール)に通う決心をしました。そして在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立し、現在も日本各地の病院の再建に取り組んでいます。その一方で臨床業務を続け、日々患者さんと接しています。

 オペにミスは許されません。クライアント企業の経営を左右するアドバイスに手抜きなどできません。そして、力をセーブして業績を上げられるほど、現在の経営環境は甘くありません。私1人のパフォーマンスの低下が、人の命や、企業とそこで働く人の人生を損なうことに直結します。つまり私は、「常に高いパフォーマンスを維持し続けなければならない」立場にあります。

 そんなキャリアを歩む中で、医師とビジネスパーソン両方の視点と経験を併せ持ってきたからこそ、「ビジネスパーソンのための睡眠術」をまとめて、多くの方に実践していただく必要性を痛感したのです。

 1つだけ、私の「失敗エピソード」を紹介させてください。

 外科医時代やビジネスを始めた直後は休む間もなく働いていたため、睡眠不足による疲労蓄積に悩まされていました。そして、外科医時代に、睡眠を犠牲にしたことで取り返しのつかない事故を起こしかけました。極端な睡眠不足を気合いで乗り切るようなことを続けていたある日、自宅で病院からの救急コールを待機していました。案の定、就寝中に「大動脈瘤破裂の疑いあり」という、生死を分ける最も緊急レベルの高い患者が搬送されてくるという連絡が入りました。私はすぐに着替え、病院の救急外来に向かおうと家を出ました。急いで自家用車に乗り込み運転席に座った直後、突然の眠気に襲われ、無意識のうちに眠りに落ちてしまったのです。2度、3度と病院から私の携帯電話に再コールがあったようですが、気づかないほどに寝入っていました。そして「おい、患者さん、死ぬぞ!」という救急部長からのコールでようやく飛び起き、急いで車を走らせ病院に駆け込みました。もしあの時、部長のコールで起きられなかったら、患者さんは間違いなく助からなかったでしょう。