生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が発刊。5刷、3万部突破のベストセラーになっている。
養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」、ヤンデル先生(@Dr_yandel)「『若い読者に贈る美しい生物学講義』は読む前と読んだあとでぜんぜん印象が違う。印象は「子ども電話相談室が好きな大人が読む本」。科学の子から大人になった人向け! 相談員がどんどん突っ走っていく感じがほほえましい。『こわいもの知らずの病理学講義』が好きな人にもおすすめ。」、長谷川眞理子氏「高校までの生物の授業がつまらなかった大人たちも、今、つまらないと思っている生徒たちも、本書を読めば生命の美しさに感動し、もっと知りたいと思うと、私は確信する。」(朝日新聞2020/2/15 書評より)と各氏から絶賛されている。
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が、世界中で深刻化しつつある中、「そもそもウイルスとは何か」について、著者が緊急寄稿した(全2回)。
ウイルスの進化速度は速い
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が、世界中で深刻化しつつある。この感染拡大を抑えるために、水際対策や大規模な集会の禁止などの対策が取られてきた。おそらく、これらの対策には一定の効果があり、感染が広がるスピードが抑えられたと考えられる。
しかし、スピードは抑えられても、感染自体はゆっくりと広がり続けている。そのため、こんな意見を耳にするようになった。
「どうせ最終的にはウイルスが広がってしまうのであれば、感染拡大を防ごうとする努力なんか無駄ではないのか」
いや、そんなことはないのである。感染症の拡大が遅くなれば収束も遅れるけれど、一定の期間で区切って考えれば、患者の数は少なくなる。そのため、医療機関がパンクすることを防ぐ意味がある。しかも、それだけではない。ここでは進化の観点から、感染拡大を防ぐ意味について考えてみよう。
たとえば、ヒトにウイルスAが感染すると、風邪の症状が出るとしよう。このウイルスAが、社会に広がりつつあるとする。ここで重要なことは、ウイルスの進化速度はとても速いということだ。そのため、感染が拡大しているあいだにも、ウイルスは進化する。
ウイルスAが進化して、毒性の強いウイルスBと、毒性の弱いウイルスCに分かれたとしよう。ウイルスBは毒性が強いので、感染した人は3日で死んでしまう。一方、ウイルスCは毒性が弱いので、感染しても死ぬことはない。
さて、もし感染拡大について何も対策をしなければ、感染した人は、毎日1人ずつウイルスをうつしていくとする。その場合の、毒性の強いウイルスBの感染者数と死亡者数がどうなるかを、1週間だけ考えてみよう。
1日目は、ウイルスBに感染した人が1人。2日目は、2人。3日目は、4人。4日目には、1日目に感染した人が死ぬので、残った3人がそれぞれ1人ずつに感染させて6人(1人死亡)。5日目には、2日目に感染した人が死ぬので、残った5人がそれぞれ1人ずつに感染させて10人(計2人死亡)。6日目には、3日目に感染した2人が死ぬので、残った8人がそれぞれ1人ずつに感染させて16人(計4人死亡)。7日目には、4日目に感染した3人が死ぬので、残った13人がそれぞれ1人ずつに感染させて26人(計7人死亡)。そして、1週間後(8日目)には、5日目に感染した5人が死ぬので、残った21人がそれぞれ1人ずつに感染させて42人(計12人死亡)。