生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が11月28日に発刊されて、発売4日で1万部の大増刷となっている。

養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。

生物の「3つの定義」を知っていますか?Photo: Adobe Stock

生物とは何か

 私が子どものころは、電話といえば回転ダイヤル式の固定電話しかなかった。電話の前についている回転盤の穴に指を入れて、回転盤を回すタイプの電話だ。電話回線というコードに繋がっているので、持ち運ぶことはできない。そのころに「電話って、どんなもの?」と聞かれたら、子どもの私はどう答えただろうか。もしかしたら、「遠くの人と話せる持ち運べない機械」と答えたかもしれない。

 しかし、今の子どもに「電話って、どんなもの?」と聞いたら、「遠くの人と話せる持ち運べない機械」とは答えないだろう。今では持ち運べない電話より、持ち運べる電話の方が多いからだ。

 固定電話しか知らない人と、固定電話以外に携帯電話やスマートフォンも知っている人では、「電話とは何か」という質問に対する答えが違ってくる。知識が広がっていくにつれて、電話の定義は変わっていくのだ。

 生物とは何か。その問いに答えることは難しい。なぜなら、現在の私たちは、地球の生物しか知らないからだ。

 将来、地球外生命が発見されるかもしれない。そうすると私たちの知識は広がり、「生物とは何か」に対する答えは変わるはずだ。それを楽しみに待ちながら、この本では現在の知識で、「生物とは何か」を考えていこう。そして、これは大切なことだが、私たちの知識が不完全であることを、いつも心の片すみに留めておこう。

 それでは現在の知識では、生物とはどのようなものだと考えられているのだろうか。多くの生物学者が認めている生物の定義とは、以下の3つの条件を満たすものである。

(1) 外界と膜で仕切られている。

(2) 代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う。

(3) 自分の複製を作る。

 意外と簡単な定義である。こんなもので生物が定義できるのは不思議な気がする。しかし、今のところ、この3つの条件をすべて持っているものは、生物しかいないのだ。

 生物の定義である3つの条件の(1)は、外界と膜で仕切られていることだ。

 すべての生物は細胞でできている。そして、すべての細胞は細胞膜で包まれている。だから(1)の「膜」は、具体的には細胞膜のことだと考えてよい。

 ちなみに私たちの細胞は、細胞膜の他に、核を包む核膜やゴルジ体膜やミトコンドリア膜などいろいろな膜を持っている。小胞体は核膜とつながった膜で、その一部にはリボソームが載っている。これらの膜の構造も、すべて基本的に同じである。そこで細胞膜も含め、これらの膜を生体膜と呼んでいる。

 さて、どうして生物は、膜で外界と仕切られる必要があるのだろうか。

 (2)の代謝を行ったり、(3)の複製を作ったりするには、いろいろな化学反応が必要だ。膜で仕切られた内部なら、反応物質の濃度を高めることができるので、いろいろな化学反応を効率的に行うことができる。したがって、代謝や複製のためには、膜で仕切られた内部が理想的な環境なのだろう。