バンコク市内のバスターミナル故郷に向かうためバンコク市内のバスターミナルに集まった人々(タイのウェブニュース局ジャンカオより)

非常事態宣言の
当面の期限は1カ月

「どういうことだ!これでは地方でクラスターが発生してしまうではないか!」

 3月22日午後、王宮にも近い首相府の首相執務室。扉のすぐ外で待機していた側近の役人たちは、プラユット首相のあまりの怒号の大きさに思わず顔を見合わせた。いたたまれずうち一人が室内をのぞくと、大型液晶テレビに映っていたのはバンコクの主要なバスターミナル駅の1つ「モーチット・バスターミナル」が人であふれる映像だった。

 テレビには、故郷へ向かうバスを待つ数千の人の波が映し出されていた。みな口々にマスクを装着した異様な光景。保健省の説明によると、この日午前0時からバンコク首都圏のレストランや商業モール、美容院などが一斉に閉鎖されたことにより、長期休業や解雇となった人たちだった。

 物価の高いバンコクにこのまま居続けても手持ちの生活費が減っていくばかり。ならば金のかからない故郷で過ごそうと駆けつけたのだった。濃厚接触確実な機密性の高いバスに乗って、これから十数時間の長旅となる。地方都市でのクラスター発生がにわかに現実味を帯びた瞬間だった。

 こうした事態を受けてタイ政府が3月24日午後に発表したのが、3月26日からの非常事態宣言だった。

 根拠法令である仏暦2548年非常事態勅令は、国の安全保障や公共の安全が脅かされるときなどに国王の名において発令することができると規定。憲法も第172条でこれを認める。

 3月24日時点で詳細についての発表はないものの、勅令によって国民の自由や私権は制限され、個人の行動や企業活動が政府のコントロール下に置かれることは確実だ。当面の期限は4月末までとするが、延長の余地も残る。現地メディアが好んで使っている「バンコク・ロックダウン(都市封鎖)」が現実のものとなった。