ホテルシェフの技で
5種類の弁当が誕生

需要激減に苦しみ、従業員を交代で休ませていたホテルからやってきたシェフが、弁当の試作品を作ってくれた

 ちょうど深川さんの会社では、ホテルとは真逆の「人手不足」に苦しんでいたから出た発想なのだが、普段ならあり得ないような話である。本当に来てもらえるとも思えず、遠慮がちに切り出したところ、「それはよかね」。意外にも二つ返事で引き受けてもらえた。

 前述したように、養殖魚は需要があろうがなかろうが、時期が来たら加工して、次の魚のために、いけすを空けなければならない。加工品は需要が回復するまで、冷凍庫に眠ることになるはずだったが、来てくれた中にシェフがいたことから、冷凍弁当構想が浮上。急ピッチで開発が進んだ。

 第1弾は天草ブリを使った5種類。ブリのガーリックバターしょうゆ味、ブリ大根、ブリの甘辛ネギ焼き、ブリの香草パン粉焼き、そしてブリ南蛮だ。「私たちのような生産者は、西京焼か照り焼きか、という程度の発想しかない。あっという間に多彩な試作品を作ってくれて、シェフの腕前に感動しました」と深川さんは振り返る。

 構想からわずか2週間ほどで開発が終わり、4月1日からウェブサイト(ページはこちら)で販売をスタートする。

 また、3月25日からは、ひとり親家庭の子ども向けに無償提供を始めた。最初の提供は100食。地元の子ども食堂・いこいスペースこあ∞まるちゃん家とのタイアップである。深川さん自身も5児を育てるシングルマザーで、会社のスタッフにも子育て中の人が複数いる。「休校になって、特にお昼ご飯に困っている」ことは、みんな熟知していた。

 深川さん自身、仕事で疲れ切った日には「何もしたくない」と思うことも多いという。「飛行機の機内食みたいなワンプレートで、レンジでチンしたり自然解凍ですぐ食べられて、しかも栄養バランスのいい“おふくろの味”みたいなお弁当があればいいなあと、漠然と考えていました」。いつも思っていた「あったらいいな」を実現するチャンスだった。

 子どもたちにはアンケートに答えてもらい、今後の弁当開発に生かす。「無償での提供だけど、商品開発に協力してもらっている。そう考えています」。実際、シェフにずっといてもらうわけにもいかない。試作を繰り返して学び、ブラッシュアップしていく必要がある。