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インキュベーションの虚と実

コミュニティづくりはインキュベーションの原点
鯖江の首長、チャンピオン、エコシステムに学ぶ

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第9回】 2012年8月20日
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 地域の元気化がうまくいっていないところの方が圧倒的に多いがなぜか。できない理由は山ほどあるだろうが、筆者の経験から考えてみよう。

・首長が言うだけ:市長や知事が「ベンチャー振興だ!」と言えばコトが進むと勘違いしている例は少なくない。これだけでは、役所の現場はヤル気がないまま(ヤル気あるフリはするかもしれないが)、チャンピオンも不在だ。エコシステムもそのままだから、起業家教育プログラムをやっても応募者は元気のない人が多い。無難に交流イベント等をやりますといって、(効果が残らない)単年度事業でその場をしのぐことも。

・エコシステム抵抗勢力:面子第一主義や保守性が強いと、新しいことはできないし若手も動きようはなく、外部もはじかれてしまう。なお、地元がゼロで外部に依存ではうまくいかないが、地元だけで外部ゼロにこだわるのも得策でない。鯖江や八戸のように、外部とつながることで互いにプラスを実現しようとするのが効果的だ。

・チャンピオン依存・見殺し:チャンピオン的な人が全くいない地域はほとんどないが、やる気があるチャンピオンに依存するだけで、お寒い首長・役所やエコシステムだと、やがて離脱することになる。しばしば見られるのは、形だけで他人事に終始したり、しまいには自分は汗をかかないのにチャンピオンに「国民の税金を無駄にするな!」と説教したりという無知な傲慢さだ。やらされている側はヤル気を失う。

 また、こうした現象は「依存」を示している。アントレプレナーシップは「自立」が基本だ。これは、地域はじめ様々なコミュニティに当てはまることだ。

 いずれも地域の組織論とでも言えそうなことが並ぶ。しかし見方を変えると、大企業の組織でも同様なことが起こっている。また、スタートアップのコミュニティでも分野によっては、似たようなことが起きている。筆者は渋谷という地域の元気化に取り組んだ経験があるが、コミュニティづくりでは共通している。

コミュニティづくり、チャンピオニングとは
インキュベーターそして起業家にとっての意味

 さて、本題であるインキュベーションの話をしよう。ここまで鯖江の話をしてきたが、それは地域の元気化を理解し、取り組むことは、とりもなおさずインキュベーションを学ぶことになるからだ。地域の元気化とインキュベーションやスタートアップとは無関係だと思うなかれ。ヒントを得ることはできる。

 前出のイバタ=アレンズ博士は、日本のインキュベーションの現場では、マネジャーの資質をもった人材が不足していると指摘した。筆者は、マネジャー人材とは地域の元気化で活躍するチャンピオンそのものだと感じている。

 なお、筆者は福岡県出身で、ここにあげた地域との縁はなかった。それでも携わるのは、シリコンバレーとは一味違い、楽しいし、得るものがあるからだ。コミュニティづくりなどインキュベーションへの示唆はもちろん、第6回でLinkedInリード・ホフマン会長が語った人とのつながりやセレンディピティがある。

 京都や鯖江、八戸などのコミュニティとつながったとき、起業家たちは生命エネルギーがアップするとか刺激を受けると言う。各地のチャンピオンたちから学ぶことは少なくない。長老や元気おばさん、行政の方など、多様な人々と話しつながる実践訓練にもなるだろう。そして、時にはビジネスでの連携が生まれる。生涯の友を得ることもあるだろう。

 もちろん、閉鎖的で出る釘を打つ地域もある。どこでもいいというわけではない。これはスタートアップのコミュニティ選びと共通している。コミュニティづくりに参加することは、イノベーションのチャンピオニングを学ぶ、一つのきっかけにもなるだろう。

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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