40年近く前、若き免疫学者がデスクに置かれた科学誌の最新号を開いた。この日に読んだことは、アンソニー・ファウチ氏の人生を変えることになる。1981年6月の「罹患(りかん)率・死亡率週報(MMWR)」が言及していた患者は、ロサンゼルスの同性愛者の男性5人だった。この1都市でみられた5人のケースは、世界の何千万人ものケースに発展することとなる。そして、今日の米国で最も大きな影響力を持つ医師が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とAIDS(後天性免疫不全症候群)にキャリアをささげ、公衆衛生における次なる空前の試練に向け、新たなウイルスに備える始まりとなった。この気掛かりな未知の病気について初めて読んだ5年後、ファウチ博士は当時の感染流行から痛烈な教訓の一つを学んだ。ワクチンができる保証はない、ということだ。