新型コロナウイルス不況は需要の減少によって引き起こされているため、デフレの要因になると思われている。しかし、リスクシナリオとして「インフレになる可能性」も考えておくべきであろう。(塚崎公義)
需要の減少はデフレの要因になるが…
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界的に外出が自粛されるなどして需要が大きく落ち込んでおり、深刻な不況となっている。需要と供給の一致するところに価格が決まるとすれば、需要の減少は価格の下落要因であるから、常識的にはデフレになるはずだ。
しかし、仮需が増加したり、需要を上回る供給の減少が起きたり、金融緩和がインフレを加速させたりするリスクも皆無ではない。
そこで本稿では、メインシナリオではないが、リスクシナリオとしてインフレの可能性について考えてみたい。
「仮の需要」が価格を押し上げるリスク
マスクが不足した理由は単純だ。多くの人々が急にマスクを使うようになって、需要が急増したからである。では、トイレットペーパーが不足したのはなぜか。新型コロナが流行したからといって、人々が使うトイレットペーパーが増えたわけではないのに…。
それは、人々が「トイレットペーパーが不足するといけないから、多めに買っておこう」と考えたからである。「仮需」が物不足をもたらしたのだ。
日本の場合、トイレットペーパーが不足しても値上がりしたわけではなく、単に欠品が続いただけだった。その一方、消費者物価統計を見ると、マスクはわずかながら値上がりしている。
仮に同様のメカニズムで世界的な規模で不足するものが出てくれば、日本国内よりも需給関係に敏感に価格が反応するだろうから、世界的な規模で値上がりが起きる可能性がある。