10万円受け取った人が消費するとは限らない
そもそも現金給付をしても、受け取った人が消費を増やすとは限らないという大きな問題がある。10万円のパソコンを買う人ばかりではなく、老後のために貯金する人も多いはずだ。
さらに、給付金が消費に回るとしても、それが今すぐとは限らない。今のように、外食もレジャーもできず、従ってオシャレをする必要性も乏しいという時に、積極的に金を使う人は多くないだろう。
すなわち、「外出自粛が解除されたら行楽に行こう」と考えて楽しみに待っている人が多いのだとしたら、今の景気の急激な落ち込みを緩和する効果は小さいということになりそうだ。
収入が減って生活に困っている人に渡った10万円は、高い確率で消費にまわるだろう。だが、それ以外の人は消費に使うとは限らない。それなら、景気対策としての効果は、「困っている人だけに資金交付」の方が大きいはずである。
加えて、10万円のパソコンが売れることがそれほど素晴らしいかといった問題も考慮されるべきだ。パソコンが輸入品であれば、あるいは部品が輸入品であれば、その分は日本の景気には貢献しない。
パソコンの生産が順調かということも検討されるべきだ。筆者はパソコンの事情に詳しくないが、部品の生産や運送、組み立てなどの各プロセスで、「社員の罹患により工場が止まっている」といったサプライチェーンの断絶は、現在のような状況では起きていることが考えられる。極端な話、パソコンがマスクのように品薄になってしまうとすれば、景気刺激効果は非常に限られたものとなってしまうかもしれないのである。
一刻も早い交付と必要な人にだけ交付の両立を目指す
もっとも、「本当に困っている人に一刻も早く現金を渡したい」という目的を考えれば、全国民への一律の給付にも一理あると言える。「収入が減って困っている人は申し出なさい。収入が減っているか否かを調査して、本当に減っていることがわかったら補助金を払いますから」というのでは、時間も手間もかかるからである。
したがって、日本国民の大部分が少しだけ資金繰りに困っているのであれば、一律の現金給付もよいだろう。しかし実際には、日本では少数の人が、大変困っているという状況だ。それなら、「急いで10万円を給付したけれど、困っていない人には返してもらう」とすべきであろう。
融資の契約にして返済を要求するということでもよいだろうが、実務を考えると復興税を全国民に10万円ずつ課すのが楽だ。税務署はどうせ税金を取り立てるわけで、その金額を一律で10万円上乗せするだけの手間で済むからだ。
さらによいのは、税務署は誰の収入が減ったのかを最も的確に知ることができるということである。昨年分と今年分の納税申告書を見比べれば、簡単にわかる。収入が減った人は復興増税を免除すればよい。それだけのことである。