疑惑や経済政策は議論にならず
支持率は感染減少とともに急上昇

「あんなに静かな投票所は初めてだった」。ソウル市内で投票した知人男性は、異例ずくめの総選挙を振り返る。

 投票所ではまず体温をチェックされた。殺菌剤で両手を消毒し、ビニール手袋をはめさせられた。床に貼られたシールに従って、他の有権者と社会的な距離を保ち、投票ボックスに。感染を防ぐため、話をする人は誰一人いなかった。

 選挙戦も大きく様変わりした。ソウルの選挙区から立候補して落選した野党候補は「コロナにやられた」とぼやく。

 遊説も行ったが、人々は外出を自粛しているため、会えるのは店を開けている食堂や自営業者の人ばかり。そして、外出を自粛している人々はほとんど与党候補に投票した。「新型コロナ問題が全てを押し流してしまった」。

 昨年秋ごろは、文大統領の側近中の側近だった曺国前法相とその家族を巡る不正疑惑が大きな関心を呼んでいた。

 野党は総選挙で、問題を大きく取り上げる方針だった。曺国前法相らは2018年6月に行われた蔚山市長選に介入した疑惑もあり、当選した現市長と親しい関係にあった文氏の政治責任を問うこともできるという思惑があった。

 最低賃金の急速な引き上げなどで打撃を受けた中小企業や自営業者らを取り込むため、文政権の経済政策の失敗も突くつもりだった。

 だが、ふたを開けると、選挙戦の議論はコロナ一色に。

 外出を自粛している人々の最大関心事は、当然のように新型コロナ問題だった。もともと北朝鮮と戦争状態にあるだけに、韓国国民は「生存問題」に敏感なこともある。曺国問題や経済政策はほとんど論議にならなかった。 

 韓国の世論調査会社リアルメーターによれば、新天地イエス教団の集団感染が発生し、感染者が急増していた2月末に政権支持率は46.1%にまで下落し、不支持が50.7%と上回った。

 2月29日から3月10日までの間に感染者数は4500人以上増えた。だが、3月後半に入って徐々に感染者の増加が鈍ると、支持率もそれに従って再上昇した。

 4月第2週の文大統領の支持率は54.4%に達し、不支持の42.3%を10ポイント以上、上回った。選挙後半になると、1日あたりの新たな感染者数は数十人程度になっていた。

SARS禍の教訓を生かす
徹底した情報公開で自衛促す

 感染の押さえ込みに成功した背景には、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や15年の中東呼吸器症候群(MERS)の流行から得た教訓に基づく感染症対策の事前準備が十分だったことがある。

 さらに、感染経路などの徹底的な情報公開によって、市民が自衛策を取れる環境をつくったことも大きかった。

 そして、韓国の対応をトランプ米大統領や欧米メディアなどがこぞって「成功モデル」と評価したことで、韓国市民は「政府与党は頑張っている」と改めて受け止めたようだ。