1人あたり10万円給付の
緊急対策以上に有意義な側面
政府はコロナウイルスの感染拡大に対応した緊急事態宣言の全国化を受け、全国民に1人あたり10万円の給付金を配ることを決めた。これは外出自粛などで打撃を被るサービス事業者や、雇用を打ち切られた非正規社員の所得補償や不況対策を兼ねた緊急対策である。
従来の所得が大幅に減少した世帯に限定した30万円の給付金と比べて、審査が不要なために来月から給付が可能という即効性に優れている。
これは見方を変えれば、従来経済学者の間で議論されていた「ベーシックインカム(基礎的所得給付)政策」が、日本で初めて、部分的にではあるが導入されるものと考えられる。
ベーシックインカムは、所得水準や就業の有無にかかわらず、国民に最低生活水準を保障する額の給付を一律に支給する社会保障政策である。その代わりに、公的年金や生活保護など、医療保障を除いたあらゆる所得保障制度を全廃する。
金持ちにも貧しい人と同額の現金給付は不公平と思われるが、それは累進所得課税で取り返せば良い。もちろん最低生活保障だけでは不安な人は、民間の年金保険契約に任意で加入し、追加的な所得を得れば良い。
現行の公的年金や生活保護などの所得保障制度の大きな問題点は、受給者が就労して賃金を受け取ると、その分だけ給付額が引き下げられることだ。在職老齢年金に就労抑制効果が大きいことは実証されているが、他方で所得制限を一切なくせば年金財政に大きな負担となる。