コロナの裏でひっそりと…
再雇用年齢が「65歳から70歳」に
70歳までの高齢者の就業機会確保に努めることを企業に義務付ける、高年齢者雇用安定法の改正が3月末にひっそりと成立した。マスコミの報道がコロナ対策一色となるなかで、ほとんど議論もなしに、2021年度からの労働市場の規制強化が、またひとつ追加された。
日本の平均寿命が延び続けるなかで、高齢者の就業機会を増やすことは必要だ。高齢者が働き続けることで、税金や社会保険料を負担すれば、それだけ勤労世代の負担は軽減される。しかし、そのためには、熟練労働である高齢者の就業を妨げている労働市場の制度・慣行の改革が不可欠だ。これが本来の成長戦略の基本的な考え方である。
高齢者の失業率は、足元では労働需給のひっ迫で低下しているものの、長らく若年者に次いで高い水準にあった。この大きな要因として定年退職制度がある。日本の大企業のほとんどが60歳に定めている定年制は、まだ十分に働ける人材を一律に解雇する仕組みである。このため多くの先進国では、定年退職制度を「年齢による差別」として禁止されている。
なぜ、日本だけがこうした年齢差別を維持しているかといえば、その主要な理由として、年功賃金により高齢者の雇用がコスト高になることと、個人の仕事能力の不足による解雇が、裁判では「解雇権の濫用」として厳しく制約されていることがある。従って、単純化すれば、年功賃金から同一労働同一賃金への移行とともに、欧州のように、個別解雇をめぐる紛争を金銭的に解決できるルールを定めることが、高齢者がその仕事能力に応じて何歳まででも働き続けられるためのカギとなる。
しかし、現実の「働き方改革」で導入された同一労働同一賃金とは、同一業務でも勤続年数に応じた賃金差を前提とした現状追認型であり、本来の職種別の同一労働同一賃金とは似て非なるものである。それどころか、日本ではまれな職種別労働市場の派遣労働者の賃金を、局長通達で無理に年功賃金に近づける逆立ちしたものとなっている(参照:「派遣賃金『勤続3年で3割増』がむしろ労働市場改革に逆行する理由」)。