IT企業に協力を求めて府民の外出自粛と飲食業を支援するという発想は、「ふるさと納税」でアマゾン・ドット・コムを利用して地域活性化につなげようとした大阪府泉佐野市に通じる、実に素晴らしい発想である(第204回)。
吉村府知事の、次々と変わる事態に対する「即応性」には目を見張るものがある。例えば、フリーアナウンサー・赤江珠緒さんのコロナウイルス感染で注目が集まった、両親(あるいは一人親)が感染した時に、陰性の子どもはどうしたらいいのかという問題だ。府知事は、子どもの養育が難しい場合、府内の児童相談所が一時保護する方針を明らかにした(「感染者の子、児相が保護 ホテルを活用―大阪府・新型コロナ」時事ドットコム)。
吉村府知事の大奮闘ぶりは、ネット上でも注目が集まっている。府知事を励ます「#吉村寝ろ」という言葉がツイッターのトレンド入りするほどである。これは、安倍首相が星野源氏が演奏する楽曲「うちで踊ろう」に合わせて、私室で犬とくつろぐ姿の動画を公開して大炎上したのとは対照的である。
米紙から称賛された和歌山県の仁坂知事
独自判断で緊急事態宣言の北海道の鈴木知事
他にもさまざまな地方自治体が、中央政府の方針を破り、独自の新型コロナウイルス対策を打ち出す事例が増えている。
その代表例が、米紙「ワシントン・ポスト」から「和歌山モデル」と称賛された和歌山県の仁坂吉伸知事だ。感染ルートの追跡を徹底することで新型コロナウイルスの封じ込めに成功した(Washington Post, "A region in Japan launched its own coronavirus fight. It’s now called a ‘model’ in local action.")。また、北海道の鈴木直道知事の例も挙げられる。新型コロナウイルスの感染者数が一時、全国最多となった北海道で、独自の判断で「緊急事態宣言」を出して、3週間にわたって週末の外出自粛を求め、感染者増加のペースを抑え込んだ(第237回・P5)。
特に、若干39歳の鈴木道知事の果断な決断は、驚嘆に値する。この連載では、これからの日本を担う次世代の政治家は、「東の小泉進次郎 vs 西の吉村洋文」だと取り上げたことがある(第209回・P4)。だが、現時点では「東の小泉進次郎」よりも「東の鈴木直道」ではないだろうか。
コロナ禍でありとあらゆることが見直され、新しい日本社会を構築する時代が始まる。そのときに、お坊ちゃまの世襲政治家はまったく必要なくなる(第233回)。現場で鍛えられ磨かれた、たたき上げの若手が新しい日本を担うべきである。
また、当初は緊急事態宣言の対象とならなかった愛知県の大村秀章知事らが、独自に緊急事態宣言を発動し、外出自粛を県民に要請した。その法的根拠には疑問が残るが、政府はその決定を後追いし、それらの県を「特定警戒都道府県」に指定した。そして、最終的には緊急事態宣言を全国に拡大することになった。
さらに、山梨県の長崎幸太郎知事は、各地で不足気味のマスクや飛沫(ひまつ)防止用のフェイスシールドを県内で製造し、必要な現場に安定供給するための仕組みを発表した。障害者施設や中小企業に製造のノウハウを伝え、県が完成品を買い取って医療現場や幼稚園などに供給するという。
このような、フェイスシールドや防護服、マスク等の衛生用品の製造や物流を担う企業を支援していく動きは、全国の自治体で起こりつつある。結局新型コロナウイルス対策は、政府の対応が後手後手で裏目に回る一方で、地方自治体が財源不足に悩みながらも現場の動きに即応して大健闘している。