産学官で開発競争に対応
特許独占防ぐ国際ルール作り

 感染症分野での医薬品や医療機器に関し、米国、欧州、中国の大学や企業の国際的な開発競争と知財競争は激化している。

 中でも中国は医薬品開発に力を入れている。既に中国の医薬品産業は、世界2位になっていて、日本の4倍の規模だ(1位米国1818億ドル、2位中国1625億ドル、3位アイルランド480億ドル、4位日本388億ドル。2018年の付加価値額)。

 中国は医薬品開発を「中国製造2025」の重点分野に指定し、医薬品を国際的な戦略物資としても使う思惑があるようだ。

 日本はノーベル賞の医学生理学賞受賞者が多く、医学の水準が高い。病原菌に関し、北里柴三郎博士が破傷風菌を純粋培養し、さらにペスト菌(1894年)を、志賀潔博士が赤痢菌(1898年)を発見し、世界の感染症対策に貢献した。

 今回でも、ノーベル賞受賞者の大村智博士が発見した抗寄生虫薬・イベルメクチンがコロナウイルス増殖を抑制したとオーストラリアのモナッシュ大学が発表し、治療薬になることが期待されている。富山化学(現・富士フイルム富山化学)が開発したアビガンも治療薬候補だ。

 しかし、残念ながら日本の医薬品産業や医療機器産業は国際競争力が弱い。

 日本は産官学が協力して研究開発を強化しなければ、国際競争に負けて外国依存が今以上に高くなってしまうだろう。

 医薬品産業の開発競争力を高めると同時に重要なのは、特許や貿易などでの新しい国際ルールを策定することだ。

 医療分野では特許の果たす役割が大きい。感染症のワクチンや治療薬は全人類が求めているものであり、開発した大学やメーカーに単純に特許で独占させるべきでなく、適正な対価のもと、広く特許のライセンスを認めるべきだろう。

 この国際的なコンセンサス作りを日本がリードすべきだ。

 また今回のマスクの輸出禁止のような医療関係物資の輸出制限は本来好ましいものではない。安易な発動がなされないように、WTO(世界貿易機関)協定に基づく国際的な合意を作る必要がある。

 医療安全保障を強化するには、外国との協力も必要だが、そのためにも日本が自前の総合的な感染症対策を作ることが必要だ。「医療安全保障」にはコストがかかるが、そのことを覚悟して、自国民の生命と健康を守ることが国家の任務だ。

(元通商政策審議官 荒井寿光)