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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

ITは雇用を生まずに所得格差だけを広げるのか?
米国の失業率が回復しない本当の理由

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第59回】 2012年8月23日
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 コンピュータに代替されないようにする人間の戦いはRace against the machine(機械との競争)である。そうではなく、コンピュータを上手に使って価値ある個人になってみようとする戦いはRace with the machine(機械を使った競争)である。コンピュータについていけない人々は労働市場で脱落するが、コンピュータを使いこなす人は大きな報酬を得る。

 企業のレベルでもRace with the machineが起きている。コンピュータをうまく使って急成長を遂げたネット企業が当地にたくさんある。彼らの資産はコンピュータとアルゴリズムであるが、忘れてならないのはこれらの企業が抱えている人的資産である。こうした人材が開発したプラットフォームが恐ろしいほどの経済的価値を持ち、これら企業は急成長したのである。

 日本でもRace with the machineで急成長してきた新興企業群があるが、その数はまだ少ない。むしろ、米国のネット企業(例えば、ヤフー、グーグル、アマゾン)が、変革を嫌う日本社会を強引にコジ開けて事業展開し、彼らの「勝者の一人勝ち」を助ける形になっているように思う。

 日本の労働市場で、腕の良いソフトウェアエンジニアが高給で他社に引き抜かれた話は聞かない。ITに習熟していることが就職で決定的に有利という話も聞かない。もし、これから日本の労働市場が米国のように開かれていけば、米国と同様な給料格差が出現するだろう。

 Race with the machineの視点は極めて重要である。我々日本人一人ひとりがIT時代に求められるようなスキルを磨いているだろうか?日本企業はコンピュータを戦略的に使っているだろうか?世界をあっと言わせるようなアルゴリズムを開発して急成長している新興企業が日本に何社あるだろうか?新しい視点で現状を見直してみてはどうだろうか。そこにはいままで気がつかなかった人間の生き方、企業成長の機会が見えてくるように思う。

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安藤茂彌
[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ

シリコンバレーで考える 安藤茂彌

シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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