「気疲れしやすく帰宅するとどっと疲れている」「何げなく言われた言葉がいつまでも忘れられない」「ささいなことに過剰に驚いてしまう」など、組織の中で常に生きづらさを感じてつらい…そんな悩みの原因は、実は「HSP」という持って生まれた気質のせいかもしれない。「HSP」とは一体どのような性質なのか。(清談社 藤野ゆり)
「生きづらさ」を抱える原因は
HSPにあるかもしれない?
人の気持ちを感じ取りすぎるがゆえに疲れやすく、自分の気持ちと他人の気持ちに境界線をうまく引くことができない。みんなが気にしていないことが、気になってしまい疎外感がある。
「繊細な人」という言葉で従来ひとまとめにされてきた人々の正体が、「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」という言葉で明らかにされつつある。
「HSPとは、一言で言えば『非常に敏感な人』のことです。周囲の人からどう思われているかがとても気になり、他人の発言に敏感に反応してしまう。感受性が強いゆえに精神的に傷つきやすく、ときに生きづらいこともありますが、良心的で基本的に相手のことを思いやることのできる優しい人だといわれています」
こう話すのは、ストレス・うつ病の専門クリニックである新宿ストレスクリニックの医師、渡邊真也氏。他者の言動や評価、感情に自分の気持ちが左右されやすく、職場や学校、組織のなかでなんとなく「生きづらさ」を感じ続けている人は「HSPの可能性があるかもしれない」という。
日本ではまだなじみのない「HSP」は、「人一倍、繊細な人物」(Highly Sensitive Person)の頭文字を取ったもの。90年代にアメリカの心理学者エレイン・アーロン博士によって名付けられた、人の「気質」を表す名称だ。この気質は環境や教育によって生じるものではなく、生まれつきストレスを処理する「扁桃体」が活発で、不安や恐怖を感じ取りやすい性質を持つとされている。
「アーロン博士によると、人口のおよそ20%、5人に1人はHSPではないかといわれています。また人に限らず、昆虫や犬、猫、鳥や魚に至るまで100種類以上の動物に似たような気質が見られることから、繊細であることは生き物としての生存戦略の一つであるとも博士は述べています」
あくまでHSPは、その人個人の気質、特性であって病気ではない。病ではないのでうつ病のように治す必要性がないのもHSPの特徴だ。
「HSP自体は病気ではありません。ただし、気疲れしやすいHSPは、そうではない人に比べてうつ病になりやすい傾向があります。うつ病は脳の一部である前頭葉の機能低下が原因として考えられていて、HSPとは大きく異なります。睡眠障害、意欲低下、興味の消失、判断力・記憶力・集中力の低下などを感じている人はうつ病の傾向があるため注意しましょう」
特に、新型コロナウイルスの影響で日本中が緊張と不安感にさいなまれている今、メンタルの不調は見過ごしてはならない、と渡邊氏は強く訴える。
「HSPの人のなかには特に体の症状がなくても、自分が感染しているのではと常に不安を感じている患者さん、コロナウイルスによって死んでしまうのではないかと思いつめてしまう患者さんもいます。このような症状は社会全体が大きな不安感に襲われた3.11の時に似ており、震災時は放射能のストレスから逃れるために関西へ移住した患者さんもいました」