「岡山じゃ、大騒ぎよ。駅前で徹夜で騒いでた。あの桃太郎の銅像の前で。騒ぎはますます大きくなるでしょうね」

「完全に決まったわけじゃありませんよ。これから国会で審議して可決しなきゃなりません。道は遠いです」

「わりとすんなり通りそうな雰囲気なんでしょ。岡山じゃ、すっかりその気よ」

「反対派はとことん抵抗しますよ。なんせ、兆単位のお金が動きますから」

「そうは言ってられないんじゃない。ダラスの会見、岡山のタクシーの中でiPadで見たわよ。あの評価の中には首都移転が織り込まれてるんでしょ。だったら、ぐずぐずしちゃいられない」

「その通りです。残された時間はほとんどないです。地震からも経済からも」

「でも、なぜダラスは国債の評価を下げるどころか上げたりしたの。あなた、また何かやったんでしょ」

 理沙の声が耳の奥に響いた。

「日本政府が取った新しい政策が復活の効果ありと踏んだからでしょ。彼らはいい加減なことで評価を変えるなんてしません」

「一つ、納得いかないことがあるわ。新首都の場所よ。なぜ、今までの候補地は外されたの。過去の候補地のほうが歴史的にも位置的にも、私には自然に入って来る場所だったのに」

「だからじゃないですか。過去のしがらみを断ち切って、新しい風を入れる。国民がもっとも望んでることなんじゃないですか」

「まあいいわ。たしかに首都移転は強烈だし、岡山なんてのは誰も考えてなかった。しかもそれが国会を通りそうだとはね。とにかく上手く行きそうだから」

 理沙はコーヒーをひと口飲んだ。疲れた表情の中にも安堵の色が垣間見られる。

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は、毎週(月)(水)(金)に掲載いたします。