第4章

3

 森嶋は実家に電話して無事であることを伝えたが、怪我をしていることは言わなかった。

「もう帰っていいんだろ。怪我の処置はすんでるんだから」

「看護師さんに聞いてくる」

 優美子が病室を出ていってから、高脇に電話した。

〈電話に出ないので心配していた。東京駅周辺は震度6弱のところもあったらしい〉

 冷静な声が聞こえてくる。

「これが東京直下型地震か」

〈そうには違いないが、本震じゃない。同じようなものが頻度を増して起こり、いずれ本物の出番だ〉

「よしてくれよ。これで前菜ってわけか。メインデッシュはこれからか」

〈とにかく無事で安心した。俺の家族も研究室のほうも問題なかった。家族を神戸に呼ぶことにしたよ。じゃ、俺は忙しいから〉

 電話は切れた。たしかに、周りからは慌ただしい声が聞こえていた。

「前菜がどうかしたの。高脇さんでしょ」

 気がつくと横に優美子が立っている。

「彼は家族を神戸に呼び寄せるつもりだ。東京にはおいておけないらしい」

「医師に会った。帰ってもいいって。でも、2、3日中に必ず病院に行くこと。早くベッドを空けてもらいたいらしいわ」

 2人は病室を出て、1階に降りた。

 待合室にも廊下にも怪我人が溢れていた。

 テレビの音が聞こえる。

 2人は立ち止まってテレビに視線を向けた。

〈今日午後12時20分、東京湾北部を震源とする地震が発生しました。マグニチュードは5.9。震度は東京駅6弱、新宿5強、渋谷6弱の激しい揺れが襲いました。この地震による死者21名。重軽症者283名。この人数はさらに増えると思われます。池袋と世田谷の火事はまだ続いています。専門家によると、今後、こうした地震が頻繁に起こるようになり、プレートは一気に破壊される可能性があるとのことです〉

 2人は人の間を縫うようにして病院を出た。