Aさんはある日、重要な会議の進行役を任されました。当日は自宅で排便して出勤するも、会議前に急に便意が生じ、トイレでは下痢になりましたが、なんとか会議には出席し、自分の役割を果たすことが出来ました。

 以来、会議の前には便意が生じて何回かトイレへ行くようになり、次第に会議がつらくなりました。Aさんは便意をなんとかしたいと、かかりつけの内科で抗不安薬を出されるも症状は改善せず、医師から“MORITA”を勧められ、伊藤医師を受診しました。

伊藤医師の回答
「下痢を何とかしたい、それは自然な思いです」

 過敏性腸症候群(IBS)の診断は、

(1)腹痛や腹部不快感が3カ月以上続く
(2)症状が排便によって軽快する

(3)排便回数が変化する
(4)便の性状が、兎糞状便(ウサギの糞のようにコロコロした便)、軟便、水様便などに変化する
(5)消化管に潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなどの器質的異常がみられない

 という特徴を満たすかどうかによって行われます。

 IBSの症状は「日常生活の質」(QOL:Quality of Life)を低下させますが、下痢型では特に顕著です。

 腹部の不快な症状が続くにもかかわらず血液検査や大腸内視鏡検査でも異常が見つからず、内科でも改善しないため、意外と多くの人が、長く症状に悩んでいます。まさに、Aさんの場合、悩みの正体は症状へのとらわれでしたので、“MORITA”が適応と判断しました。

「会議のたびに便意が気になり、出席することが怖くなりました。それを何とかしようとすればするほど気になります」

 とのAさんの訴えに対して、

「それはつらいですね。しかし何とかしようと思うのは、人間として自然な心のありかたです。」

 と、あるがままに受け止めました。

 Aさんには、何とかしようと思えば思うほど便意に注意が向いて、そのつらさを増している、という精神交互作用(注:感覚に対する過度な注意が、その感覚を固着、拡大させる、いわゆる「注意と感覚の悪循環」)が働いています。ここではあえてそれには触れず、自分をあるがままに受容する気持ちに導きました。Aさんにはほっとした表情が見られました。