そこで以下のようなストーリーを考えてみよう。

 まず、何のコストもかけずに、一瞬で全国民の検査が可能で、検査の精度は100%(陽性者はすべて真の陽性者であり、陰性者も真の陰性者である)とする。その結果、すべての感染者を発見できたとする。そのような場合、感染者を隔離すれば感染が広まることはないのだから、コロナ感染症は終息する。

 全国民に検査をして、大量の感染者が出たら大変だと言う人がいるが、検査されない感染者は他人にうつしている。また隔離する場所が足りないとも言うが、実際にホテルに頼んだら大量の隔離場所が確保できた。

 重症者は病院に入院しなければならない。病床が足りなくなり医療崩壊を起こすというなら、重症者は入院できないことになる。病院は感染から免れて医療崩壊していなくても、医者に診てもらえない患者がいる段階で、国民から見れば医療崩壊は発生している。

 次に、上記のストーリーを現実的なものにしてみよう。

 検査には費用も時間もかかり、検査の精度は100%ではない。陰性者を陽性と誤認すれば、隔離しなくても良い人に迷惑をかける。陽性者を陰性と間違えれば、この偽陰性者は感染を拡大することになる。

 ここから分かることは2つだ。1つ目は検査の精度が問題であるということ、2つ目は検査に時間がかかるのだから、感染していそうな人から検査するべきであるということだ。さらに、感染を拡大しそうな人と場所、感染が広まると深刻な事態になりそうな人と場所を集中的に検査する、あるいは、やはり接触を制限するということが必要になる。

検査精度の意味と
かかるコストを試算する

 次に検査の精度について詳しく考えていく。

 どんな検査でも100%ではないから、真の陽性者で検査も陽性(真陽性)、真の陽性者で検査が陰性(偽陰性)、真の陰性者で検査も陰性(真陰性)、真の陰性者で検査が陽性(偽陽性)の人が出る。真陽性の人は隔離し、偽陰性の人は感染を広め、偽陽性の人は間違えて隔離されることになる。

 詳細は注1の通りだが、PCR検査の感度70%、特異度99%とし、日本の人口約1億2600万人のうち1%が感染しているとすると、真陽性の人が88万人、偽陰性の人が38万人、偽陽性の人が125万人となる。検査のコストは、1人1万円として、1万×1.26億人=1.26兆円である。

 偽陰性の人はコロナを感染させるが、陽性の人の7割は隔離できているのだから、これまでと同様にしていても、人との接触を7割削減した世界が生まれている。

 真陽性の88万人は治療しなければならない。いずれにしろ患者は治療すべきものであるから、これは大量検査のコストではない。また、症状の重い人の多くは現在でも治療を受けているはずである。症状のほとんどない人も隔離しないといけないが、発見されなかったらうつしていたのだから、この隔離はコロナ禍のコストを削減している。

 擬陽性の125万人は隔離しないといけないことになる。説明を簡単にするため、擬陽性者は症状がないとしておく。ここで症状があれば別の病気になっているのだから、治療しなければならない。いずれにしろ治療しなければならないのだから、これは大規模検査・隔離政策を行うコストではない。

注1 新型コロナの検査には、PCR検査、抗原検査、抗体検査がある。うち、抗体検査は、ウイルスに対抗して人体に形成される抗体を測るものであるから、感染した初期の段階では検知できない。PCR検査はウイルスのRNAを測るもの、抗原検査とはウイルスに特有のタンパク質の型を測るものであるから、感染初期に検知できる。抗原検査は、短時間で検査できるが感度は60%、特異度は99%、PCR検査は時間がかかり、感度は70%、特異度は99%といわれている(神奈川県医師会「PCR検査の特性と限界」、忽那賢志「抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける?」による。抗原検査の感度、特異度は、著書が忽那の情報より適宜判断したもの)。説明の簡略化のために、PCR検査のみを行うこととして説明している。もちろん、PCR検査のさらなる効率化、抗原検査の感度を上げることは重要である。
 検査の精度について理解するためには、感度と特異度について理解する必要がある。人口100人の中で真の陰性者99人、真の陽性者1人であると仮定する。
 -感度70%とは、真の陽性者で検査も陽性(真陽性)が0.7人、真の陽性者で検査が陰性(偽陰性)0.3人
 -特異度99%とは、真の陰性者で検査も陰性(真陰性)が99%であるということ。すなわち、真の陰性者で検査も陰性の人は99人×0.99=98.01人。真の陰性者で検査が陽性(擬陽性)99×(1-0.99)=0.99人
 ということである。
 日本の人口は1.26億人であるから、全員の検査をすると、真陽性の人が0.7×1.26億=88万人、偽陰性の人が0.3×1.26億=38万人、偽陽性の人は0.99×1.26億=125万人となる。