『グラフのウソを見破る技術 マイアミ大学ビジュアル・ジャーナリズム講座』は、米国マイアミ大学で人気のビジュアル・ジャーナリズム講座をベースに書籍化された現代人のためのグラフ・リテラシーの入門書です。コロナ禍のニュース等を通じて、さまざまなスタイルのグラフを目にした人も多いはず。政治、気候変動、健康問題から映画の興行収入、ハリケーン進路の予想図…誰でも知っているさまざまなテーマの最新のデータを使って、ニュースをからめながらさまざまなグラフを読み解くための基礎知識を身に着けていきます。驚くことに、その多くにグラフの読み手を誤解させる仕掛けが潜んでいることに気づかされます。グーグルやEUで教えるインフォグラフィックスの世界的エキスパートがグラフ・リテラシーのノウハウを初公開! そのエッセンスをコンパクトに紹介します。
典型的なウソつき棒グラフが放映されてしまった
グラフは嘘をつくことがある。間違った情報を表示したり、表示する情報が少なすぎたりするからだ。しかし、グラフは適切な種類と量の情報を示しているにもかかわらず、お粗末なデザインやラベリングによって結局、嘘をつくこともある。
2012年7月、フォックス・ニュースは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領が実施した最高税率の引き下げを、バラク・オバマ大統領が2013年初めの期限をもって打ち切る計画だと報じた。富裕層は税金が増えるだろう。
でもどれくらい? 右の棒が、ブッシュ政権下で決まった最高税率を示す左の棒に比べてどのくらい高いか、目測してみよう。すごい増税だ!
フォックスが数秒間流したグラフには数字が記されていたが、字が小さくて読みづらかった。税率の上昇は約5パーセントポイントなのに、誇張するために2本の棒は恐ろしく変な大きさになっている。
私も税金嫌いでは人後に落ちないが、怪しいグラフを盾にした議論はもっと嫌だ。これはグラフ製作者の政治的傾向とは関係ない。誰であれ、このグラフを作った人はグラフデザインの初歩的な原則に背いている。オブジェクト(この場合は棒)の長さか高さで数字を表示するのなら、高さあるいは長さはその数字に比例させるべきだ。したがって、このグラフの基準線はゼロに設定するのが望ましい。
棒グラフの基準線をゼロ以外に置くのは、数字の知覚を歪ませるトリックとして、本書に出てくる中でも最もあからさまな例だ。しかしインチキな縮尺は、あらゆる主義者の名を借りた詐欺師や嘘つきが用いる、数ある手口の一つにすぎない。はるかに気づきにくいトリックがほかにたくさんあることが、これからわかってくるだろう