
米雇用統計、若年層の失業率にAI普及の影
「中国ショック」から「AIショック」!?
8月1日に発表された7月の米国雇用統計は予想外の弱さだった。農業分野の就業者増が7.3万人と、10万~11万人だった市場予想を下回っただけでなく、5、6月の雇用者増も大きく下方修正された。米国の労働市場は底堅いとの見方が揺らぎ、市場ではFRB(連邦準備制度理事会)による9月の利下げを見込み割合が急増した。
ただ、移民流入の減少もあって、雇用者数の増え方は小さくても労働需給のバランスである失業率はそこまで上がっていない。雇用統計は振れやすく、一回の弱い結果だけで景気の先行きを判断するのは早計だろう。
むしろ気になるのは、“雇用統計ショック”に隠れた雇用市場の構造的な変調の兆しだ。特に注目されるのが、生成AI活用の急速な進展で雇用が奪われる可能性である。AIに置き換えられやすいとみられているのが、ホワイトカラーの若手社員が担う業務で、初歩的な整理や分析、資料の作成など、社会人としてのキャリアを積む最初のステップとされてきた仕事が狙われやすいという。
7月の雇用統計を見ても、20~24歳の若年層の失業率は7.9%で高止まっている。
米国の政治に影響を与えてきた雇用問題といえば、これまで中国からの安い輸入品流入などによるブルーカラー層の失業だった。トランプ大統領はそうした製造業を中心とした労働者の不安や不満をくみ上げてコア支持層に取り込み、政権の座に就いた。
今後、AIによる若年ホワイトカラー層などの雇用破壊が進むとなれば、「中国ショック」から「AIショック」へと雇用と政治を結ぶ論点が変わり、米国政治の潮流や力学にも影響を及ぼすことになりそうだ。
ホワイトカラー層やエリート層を支持基盤にしてきた民主党が問題に腰を入れて取り組み、復活の追い風にするのか、あるいは、不満や不信を吸い上げることにたけた“トランプ流政治”がターゲットを変えて力を増したり、排外主義を強めたりする契機になる可能性がある。