10年にわたる景気拡大が終わりそうな頃、アフリカ系米国人はついにある程度の経済的安定を見つけつつあった。失業率は過去最低となり、彼らの賃金は緩やかに上昇し始めていた。ミルウォーキーの調理師アンソニー・スチュワードさん(34)はそうした進歩を体現していた。2018年に企業のカフェテリアでの時給10.50ドルの仕事を辞め、バスケットボールのミルウォーキー・バックスの本拠地ファイサーブ・フォーラムで特別席のゲストにステーキやチキンウイング、モッツアレラを出す同15ドルの仕事に就いたのだ。仕事は好きだった。そしてこの夏には、労組が交渉で勝ち取った16.5ドルへの賃上げが予定されていた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とシャットダウンがそれ――近年の記憶の中で黒人にとって最も有望だった経済――を台無しにした。