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スマートフォンの理想と現実

ゲームのルールは変わった――アップルvsサムスン訴訟の評決が意味するもの

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第32回】 2012年8月30日
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 だが、アップルとサムスンの関係は、それに留まらない。両者は、サムスンがデバイス(部品)の供給者であり、アップルが調達元でもある。特にサムスン は、iPhoneやiPadなどの製品の心臓部にあたるCPU等のチップを、アップルに供給している。

 となれば、実はアップルの生殺与奪を握るのはサムスンではないか、と考えることもできる。しかし、セミコン分野のアナリストに話を聞くと、どうやらアップルはサムスンに対して、それこそ彼らの生産能力をも左右できるような、相当支配的な状況にあるようだ。

 9月に発売予定のiPhone5に搭載されると見込まれる最新鋭のCPUの製造は、当面サムスンが担うようだ。しかしこの生産についてサムスンは相当程度の生産能力を提供しなければならない見込みだという。しかもアップルは、両者の力関係をさらに優位にするための、二の矢、三の矢を用意しているとも聞く。

 今回の訴訟と一連の販売差し止めで、仮にサムスンによる最終製品の出荷が制限を受ける事態となれば、ただでさえ多くの生産能力を提供しているのに、より一層アップル向けに生産設備を振り向けなければならない。つまりこれはサムスンの本格的な下請け化を促すということを意味する。

 製品の生産が係争の如何に関わらず進んでいる以上、こうした事態の展開は係争の終結を待たない。いわば、アップルの下請けとしてiPhone等の製造を一手に引き受ける、台湾の鴻海精密工業の下で、下請け化(あるいはアップルから見れば孫請け化)するシャープと似た状況に入りつつあるということである。

 今回の訴訟の結果はその流れを加速する。そしてサムスンのデバイス供給の状況は、他のベンダーの出荷状況にも重大な影響を及ぼす。そして市場全体をコントロールする能力を、アップルが握る――今回の評決の「もう一つの意味」は、そこにある。

進む脱アンドロイドの流れ

 一方サムスンも、ただ指をくわえて状況を見ているだけ、というわけにはいかないだろう。おそらく今回の係争をきっかけに、アンドロイド一辺倒の状況から多様化へと進む可能性が高い。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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