「サムスンでは、社内の法務部が製品デザインをしている」。

 これは、業界でまことしやかに語られるジョークだ。アップルから訴えられることを避けるため、サムスンでは法務部の社員がアップルの特許をにらみ合わせながら、デザインに指示を出しているというわけである。

 テクノロジー業界では昨今、あちこちの企業間で訴訟が勃発しているが、その中でも最も派手にやり合っているのが、アップルとサムスンだ。両社は、世界の10ヵ国で30にも及ぶ訴訟を起こしており、片方の訴訟に対して他方が反訴するという訴訟合戦が、もつれた糸のようにややこしくなっている。

 そうした状況を鑑みて、連邦地方裁判所は両社に和解協議を開始することを命じた。積み重なった訴訟の審議に取りかかる前に、両社の間で何らかの合意点を見いだせという命令である。その協議がさる5月21日から始まったが、もちろん、ちょっとやそっとでは合意に到達しないだろう。

 アップルは、サムスンがギャラクシーフォンやギャラクシータブレットにほどこしたデザインや使い勝手が、アップル製品を「露骨に真似したもの」と批判している。ステーブ・ジョブズは生前、「アンドロイドには原子兵器で攻撃してやる」と述べたほど、アンドロイドOSがモバイル製品に広まっていることを嫌っていて、アンドロイド陣営を攻撃するためのもっとも好都合な標的としてもサムスンを選んだのだろう。

 アップルがジョブズの強硬路線をすぐに取り下げて、すごすごと和解するわけもなく、一方のサムスンも、アップルがサムスンの3G通信技術に関する特許を侵害しているというのを楯に、根気強く闘いそうな気配だ。和解に到達しても、どちらがどちらに金を払うことになるのかという問題があり、メンツを保ちたい両社のいがみ合いは続くだろう。

 この特許訴訟は、とことん突き詰めたところでは真に特許侵害を争うものというよりは、競合企業を蹴落とすための策であることは間違いない。今や、技術の標準化と特許は企業競争の技のひとつとして使われるようになっており、アップル対サムスンの訴訟合戦も同様である。ことにアップルは訴訟を連打することで、どうにかしてサムスンを撃墜しようと目論んでいる。今やサムスンが世界のスマートフォン市場で占めるシェアはアップルを抜いており、サムスンは憎き敵なのだ。