ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
スマートフォンの理想と現実

ゲームのルールは変わった――アップルvsサムスン訴訟の評決が意味するもの

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第32回】 2012年8月30日
著者・コラム紹介バックナンバー
previous page
3
nextpage

 一連の係争はまだ継続する見込みであり、結論を急ぐわけにはいかない。ただここまでの展開ではっきりしたのは、OSを一つに絞り込むのは今回のようなリスクがあるということと、一方でその絞り込まれたOSの供給元であるグーグルが必ずしも十分にメーカーを守る存在ではないということである。

 アップルはサムスン以外にも、HTCやモトローラ・モビリティなど、アンドロイド端末を製造するメーカーと係争を繰り広げている。いわばアップル対アンドロイド陣営という構図であり、その中心には〈宗主〉としてのグーグルが存在した、はずだった。

 しかしここまでグーグルは、アンドロイド陣営に対して、必ずしも宗主たる態度をとっているようには見えない。むしろモトローラ・モビリティの買収等を通じて、〈陣営〉という一枚岩の状態を、自ら否定するような動きさえ見せている。

 こうした一連の顛末もあり、端末メーカー各社はすでに多様化戦略の準備を進めている。たとえばHTCはマイクロソフトのWindowsPhoneに対応した端末の提供を展開しているし、また当のサムスンも、従来から開発を続けていた独自OSのbadaを、インテルとの共同開発で開発を進めているHTML5に本格対応したOSであるTizenに統合することを、すでに今春のCESで発表している。

 特にTizenに関しては、先進国のローエンド市場や新興国などでの普及が進む可能性がある。日本国内においても、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)の買い替え需要を満たす、ローエンド市場の「1台持ち」におけるスマートフォン普及は、今年から来年が本番であり、ハイエンド市場に比べてOSに対するこだわりが低いと仮定すれば、HTML5対応の強化でネイティブアプリによる縛りからの自由度を増した、Tizenが普及する余地は十分にある。

 この流れが加速すると、マイクロソフトとインテルは、中期的にはスマートフォン市場の台風の目となっていく可能性が高まる。両者とも知的財産権の取り扱いについてはプロ中のプロであることは、たとえば現時点でもサムスンがMicrosoftに知財使用料を払っていることからも理解できる。またインテルはそれこそ世界有数のチップベンダーであり、セミコン市場の支配力は現在も十分に強い。

次のページ>> 日本市場への影響は?
previous page
3
nextpage
IT&ビジネス
クチコミ・コメント

facebookもチェック

クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

「スマートフォンの理想と現実」

⇒バックナンバー一覧