株主以外のステークホルダーを重視する姿勢、雇用や投資への長期的な視点など、日本企業の経営スタイルがあらためて評価されている一方、遅い意思決定スピード、硬直的な人事制度など、意欲的なスタートアップの足を引っ張りかねない特徴もあります。
テオ:必ずしもそうとは限りませんよ。思い起こすと、これまでたくさんの日本企業がシンガポールに投資してきました。ですから、我々には日本企業と長らく関わってきた経験があります。
その経験から申し上げると、日本企業は、保守的で慎重、意思決定が遅いといわれますが、これらは必ずしも欠点ではありません。いまのようなVUCAといわれる経営環境では、むしろ再評価すべきです。実際、アジア通貨危機、リーマンショックなど、世界規模の経済危機を、日本企業はうまく乗り越え、再起しています。まさにレジリエンス能力に優れているといえましょう。
また、最近は近視眼になりつつあるともいわれていますが、おっしゃるように、日本企業の経営はそもそも長期志向です。終身雇用や年功主義、一つの事業を辛抱強く継続するなど、長期的な視点で人や事業を育ててきました。こうした長期志向の姿勢は、シンガポールにも通じるものです。
とはいえ、多くの投資家や株主が短期志向であり、長期志向の取り組みはなかなか難しくなっているのも、動かしがたい事実です。ですが、コンソーシアムならば、こうした短期志向から逃れられるばかりか、たとえば1社のリソースや努力では届かない、あるいは途中で挫折してしまうといった限界やリスクを解消してくれます。
宮丸:テオさんからお話があったように、バーテックスは200社以上のスタートアップに投資してきた実績があり、いまもシンガポールの政府系ネットワークを活用しながら、彼らの事業やマネジメントをサポートしています。私どもアビームのクライアントは、多くが大企業になりますが、年間約1000社の企業と取引があります。両者がタッグを組めば、新しい未来を生み出す“化学反応”が起こるのは間違いありません。
ここ数年は、新規事業開発やビジネスモデル改革の支援に注力しており、2019年からは、そのための共創型イノベーションプラットフォーム「Co-Creation Hub」を創設しました。ジャパンコンソーシアムでも、ぜひ活用していきたいと思います。このプラットフォームでは、とりわけ「パーパスの設定」(Purpose)、「人材の育成や供給」(People)、「事業開発の方法論やプロセスの指導」(Program)、「共創の場の提供」(Place)という4つの“P”に力点を置いています。
日本の大企業では、マネージメント層が新規事業プロジェクトをやり切る、絶対成功させるといった覚悟に乏しい、といった厳しい指摘もあります。それは、担当者のキャリアや資質、チームメンバーなどにも左右されるとはいえ、日本企業の場合、組織風土や価値観、過去の経験、他部門への配慮等の影響が極めて大きい。こうした組織的な制約を乗越えるうえでも、このコンソーシアムを是非活用していただきたいですね。
テオ:日本に限りませんが、長い歴史とそれゆえ成功体験が多い大企業の場合、どうしてもNIH(自前主義)になりがちです。そのせいか、スタートアップや駆け出し企業には否定的だったりするものです。こうした反応は当たり前のものですが、時代は大きく変わっています。
オープンかつグローバルな協業やコラボレーションは、時代の要請です。その際、技術提携や業務提携、ジョイントベンチャーやM&Aなど、さまざまな選択肢が考えられますが、我々は、同床異夢に陥ることなく、失敗のリスクが小さい、オープンイノベーション型のコンソーシアムを選択しました。
実は、バーテックスには、「パートナーシップグループ」――2020年1月現在、9名の精鋭メンバーで構成されています――という組織があり、スタートアップの探索や経営環境の動向をはじめ、コラボレーションを成功させる方法論やコンサルティングを提供しています。ですから、紹介やマッチングだけに留まることなく、その先についてもサポートしています。