大企業とスタートアップとの協業やオープンイノベーションは、もはやマストであり、しかも新たに身につけなければならない組織能力である。しかし、日本では成功例が少ない。ウイン・ウインの関係がうまく築けない、同床異夢のまま進んでいく、スタートアップを対等なパートナーとして扱わない(ついつい下請け扱いしてしまう)、それゆえ自社のコア事業やコア技術に引き寄せてしまうなど、古くて新しい課題である「パートナリング(partnering)能力」が欠けているからだ。

 こうした現状を鑑み、新規事業開発やイノベーションのパートナーシップを徹底的に支援するプロジェクトが立ち上がった。日系コンサルティング会社のアビームコンサルティングは、シンガポールの政府系ベンチャーキャピタル(VC)、バーテックス・ベンチャー・ホールディングスのVCファンドに出資し、日本を超えてさまざまな国のスタートアップとの共創空間「ジャパンコンソーシアム」を設立した。

 バーテックス会長のテオ・ミン・キアン氏、同ファンドのゲートウェイとして日系投資家を束ねるリサ・パートナーズのシンガポール現地法人取締役会長のチュア・テック・ヒム氏、アビームコンサルティング執行役員の宮丸正人氏のキーパーソン3人に、彼らが組成したベンチャーファンドとジャパンコンソーシアムのあらまし、そしてスタートアップとの協業やオープンイノベーションの成功要因などについて聞く。

編集部(以下青文字):まず、今回の3社によるプロジェクトについて教えてください。

バーテックス 会長 テオ・ミン・キアンTeo Ming Kian
バーテックス・ベンチャー・ホールディングス会長。2012年5月より現職。がん免疫療法のスタートアップであるテッサ・セラピューティックス会長、伝染病治療を手がけるタイチャン会長、持続可能な暮らしに関するイノベーションを支援するテマセク・ファウンデーション・エコスペリティ会長、バイオテクノロジーの非営利研究機関テマセク・ライフ・サイエンス・ラボラトリー理事長、またテマセク・ホールディングスやインテレルの取締役などで要職を務める。オーストラリアのモナーシュ大学を卒業後、マサチューセッツ工科大学で理学修士を取得。

テオ:バーテックスは、ITあるいはITC、ヘルスケアを投資対象としたVCです。中国、シンガポール、インド、イスラエル、シリコンバレーなど、計8カ所に拠点があり、6つのファンドを組成しています。実は、これら6つのファンドで、グローバルのユニコーン企業の8割をカバーしています。

 今回のVCファンドは、「バーテックス・マスター・ファンド2号」(VMF2)というもので、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスの100%傘下のバーテックスが組成するファンド・オブ・ファンズ(運用会社が複数の投資信託に投資する形の投資信託)です。

 総額約7億3000万ドルを目標に、2019年2月に設立しました。日本からの出資は1億8000万ドルで、その内訳は丸紅が5000万ドル、三井住友銀行が2000万ドル、アビームコンサルティングが1000万ドルで、そのほか日本政策投資銀行(DBJ)、国際協力銀行(JBIC)も出資しています(注)

 このように、VMF2は外部の投資家を初めて募ったオープンなファンドであり、ユニークな特徴を持った日本の民間企業に出資を募ったことで、公的部門、民間部門両方からの出資が実現したことも大きなポイントの一つです。とりわけDBJとJBICが同時に出資するのは非常に稀なことです。

 また、VMF2のもう一つ大きな特徴として、戦略重視の投資家が中心であり、彼らは経済的なリターンのみならず、将来に高い関心を持っていることが挙げられます。コンソーシアムを通じて新規事業開発やオープンイノベーションの機会も提供できるので、出資者、参加企業、そして我々の間にトリプルウインが成立しています。

【注】アビームコンサルティングは、第2号マスター・ファンドのゲートウェイファンドであるリサ・バーテックス・ファンド(RVVF)を通じて、VMF2にLP出資を実施。