15人で創業→倒産危機→売上4兆円!ダイキン工業を「空調世界一」に導いた経営の神髄とは?Photo:Bloomberg/Gettyimages

京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本記事では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。名和教授は、2024年に100周年を迎えたダイキン工業を「日本流進化の見本のような企業」と高評価する。1世紀前に15人で創業した「小さな町工場」が空調世界トップまで上り詰めた理由とは?

大阪・難波の町工場から
「世界のダイキン」に進化

 東京商工リサーチによると、2024年に100周年を迎えた企業は2519社を数えるという。今回はその中から、日本を代表するグローバル企業に成長したダイキン工業(以下、ダイキン)に注目してみたい。

 ダイキンは、言わずと知れた空調の世界トップ企業である。空調事業に加えて、フィルター事業で世界2位、フッ素事業ではデュポンからスピンアウトしたケマーズに次いで、こちらも世界2位であることは意外に知られていない。海外売上比率は84%。これも日本を代表するソニー(77%)や日立製作所(61%)を大きく凌駕していることは、あまり気づかれていないかもしれない。

 100年前に、難波の小さな町工場としてスタート。そして100周年を迎えた2024年には「売上高4兆円の中小企業」(※注1)に変貌を遂げている。その2つの時点のスナップショットを見比べると、見事な「変身」ぶりに舌を巻く。

 しかし、100年間の歴史をひも解いてみると、変身ではなく「変態(メタモルフォーゼ)」であったことに気づく。あたかも、卵が蛹となり、蝶となって華麗に飛び立っていくように。筆者が前著『超進化経営』の中で、「軸旋回(ピボット)」型と名付けた日本流進化の見本のような企業である。

15人で創業→倒産危機→売上4兆円!ダイキン工業を「空調世界一」に導いた経営の神髄とは?PHOTO (C) MOTOKAZU SATO
京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。

 そのプロセスは、創業期、成長期、飛躍期という3つのフェーズに分節することができる。本連載の文脈で言えば、大きく「守」「破」「離」の3フェーズととらえることもできよう。それぞれ、創業者の山田晁氏(社長在任1924~1965年)、その長男で3代目社長の山田稔氏(同1972〜1994年)、4代目社長の井上礼之氏(同1994〜2002年)が、同社の変態を牽引していった。

 なかでも、井上氏が社長に就任して以降の同社の快進撃はよく知られている。1994年に3000億円台だった売上高を、30年後には12倍にまで引き上げた。まさに10X(桁違い)の成長ぶりである。井上氏が「ダイキン中興の祖」と呼ばれるゆえんもここにある。