年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。
自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』から、シーン別にNG行動・発言とOK行動・発言を対比させながらどのような言動で接したらいいかを紹介していきます。
×その「仕事」をお願いする意味、会社としてのメリットを伝える
○その「人」にお願いする意味、メリットを伝える
リーダーの悩み:やらされ感が出ている部下のパフォーマンスが一向に上がらない
ある営業チームのリーダーAさんは、8ヵ月連続で営業目標を達成している部下Cさんに対し、マニュアル改訂の仕事をお願いしました。Cさんのノウハウを他のメンバーにも浸透させたいと思っていたのです。Cさんは現場での仕事が好きで、マニュアル作成の仕事に興味がありません。営業時間をとられてしまうので、むしろ苦痛に思っていました。ミーティングも何度もあり、Cさんにはやらされ感が出ています。
もっと自発的に動いてもらう必要があります。やらされ感を持って仕事をしてもパフォーマンスはよくならないでしょう。リーダーAさんは研修を通して相談に来たのですが、このようにやらされ感満載の部下はけっこういます。
部下がこのような状態になっている要因としては、次の3つが考えられます。
1.やる必然性を感じられない
AさんはCさんに対して、
(×)「この仕事をすることでチームの底上げにつながるから」
(×)「新入社員の教育に使えるから」
(×)「会社の売上アップにつながるから」
といった、会社がプラスになる理由を伝えて仕事をお願いしました。
また、日々その理由を伝え続けたのです。AさんはCさんにこう伝えることで、大切な仕事を任されているとモチベーションが上がり、自発的に動くと思っていたのです。
確かに仕事を頼む理由「WHY」を伝えるのはいいことですが、このケースでは残念ながら部下は変わりません。
このような会社のメリットだけを伝える頼み方だと、Cさんからすると「別に私でなくてもいいのではないか」と思ってしまうのです。
ここでは、「なぜCさんにお願いしたいのか」を伝える必要があります。
このケースでは「Cさんのノウハウをチームに浸透させたいからマニュアルにしてほしいんだ」と伝えます。その他、本人の将来への意向などを聞いて知っていれば、
(○)「Cさんが、将来セールストレーナーになったとき役に立つから」
(○)「人事の仕事に興味を持っているから」
など、「その道に近づけるよ」という理由で頼むといいでしょう。
このように、なぜその人に頼むのかを明確にすることで「自分ごと」になります。
2.自由にできる余地がない
細かいところまでリーダーが決めて部下に仕事を任せる場合は、お願いするのは「仕事」ではなく「作業」になってしまいます。「仕事」と「作業」の違いは、自分の考えを注入して進められるかどうかです。
そこで「仕事」の部分を残します。「まとめの部分以外は〇〇さんの考えで進めていいよ」と、いわゆる自由にやっていい部分、余地を残しておくのです。
3.フィードバックがうまくできていない
部下にとってあまり乗り気でない仕事をお願いするときは、褒めるフィードバックでモチベーションを上げていく方法もいいでしょう。褒めるだけだと部下が育たないということは、本章の「部下の強みを見つけて活かし、現状の問題点をしっかり伝える」で書いていますが、「やらされ感満載の部下」に叱咤激励だけでは逆効果です。
リーダーAさんは部下Cさんに対し、「頑張っているね。引き続きよろしく」と褒めていました。もちろん、リーダーが部下の努力を褒めているのは素晴らしいことです。
しかし、思慮深い部下からすると、「どの部分がよかったのか」、よかった理由を一緒に伝えないと、褒めているのではなくおだてていると思うかもしれません。
褒めるときは、理由もセットで伝える必要があるのです。
この3点を注意したことによって、部下Cさんから「やらされ感」が消え、自発的に取り組むようになったのです。
自発的に取り組むことで、マニュアルの精度も高まったうえに、なんと完成も予定日より1週間も早まったのです。
リーダーはつい「会社のため」「部署のため」という視点で部下に仕事をお願いするかもしれませんが、なかなかそう思い通りにはいきません。部下からすると「なぜ私が」と思うのも仕方ないのかもしれません。
だからこそ「あなたにやってほしいから」と、その人に頼む理由を明示する必要があるのです。
【ポイント】
会社のメリットではなく、部下個人のメリットを伝えて仕事をお願いする