年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。

自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解から、シーン別にNG行動・発言とOK行動・発言を対比させながらどのような言動で接したらいいかを紹介していきます。

リーダーの不正解:結論ありきの聞き方をする
リーダーの正解:困っていることを前提とした聞き方をする

リーダーの悩み:「大丈夫」と言うがそうではなかった……。部下が本当のことを話してくれない場合、どうすれば?

 大手化学品メーカーでリーダーに昇格して3年目のAさんから、次のような相談を受けました。

「仕事を止める部下にどう指導したらいいか」

 先日も会議に必要なデータの作成を頼んだそうですが、期限が1時間過ぎても上がってきません。Aさんは、
「あと2時間で仕上げてほしいんだけど、大丈夫かな?」(×)
「問題ないよね?」(×)
と尋ねます。

 部下のCさんは「はい、大丈夫です」と言ったものの、その後2時間が過ぎても上がってきません。終業時間間近になってしまい、結局Aさんは、Cさんに頼んだ仕事を持ち帰って自分でする羽目になってしまいました。

 後でほかの部下に聞いたところ、急にお客様からの依頼が入って、対応をしていたそうです。しかし、Aさんには「どっちが大切なのか!」と叱られそうで言わなかったようです。

 このケースの問題は、「仕事を止める」だけではありません。他に問題が隠れています。部下が「本音を言えない」ことです。原因はリーダー側にあります。

 リーダーは部下からすると立場が上です。リーダーが思っている以上に、部下はリーダーに脅威をいだいています。「大丈夫?」と聞かれたら、「大丈夫じゃない」とは言いにくいのです。

…>部下が何も言わなくなる原因

 グーグルが、チームを運営する際に、重要な要素としているのが「心理的安全性」です。チームの心理的安全性とは、「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり……ありのままでいることに心地よさを感じられるようなチームの風土である」(『1兆ドルコーチ』 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。

 グーグルが行ったチームを成功に導くカギに関する調査でも、心理的安全性は筆頭に挙がっているそうです。心理的安全性の高いチームは、安心してリーダーや同僚に意見を言います。「言ったら怒られる」「評価が下がるかもしれない」というネガティブな要素を感じないからです。

 逆に、心理的安全性の低いチームでは、意見を言うと怒られたり、評価が下げられたりすると思ったら、部下は何も言わなくなります。

 先のAさんのチームは心理的安全性が確保されていないのです。ただし、心理的安全性の高い組織は、風通しや仲がいいだけの組織ではありません。

「ぬるい」組織にするのとは違います。不要なプレッシャーをなくし、困ったことを相談しやすい環境にするのです。言いたいことをはっきり言えない部下には、言える雰囲気をつくる必要があるのです。

…>「オープンクエスチョン」で話しやすくする

 先ほどの「大丈夫かな?」は「YES」「NO」のどちらかで答えるクローズド・クエスチョンです。

「NO」と答えることもできますが、たいてい上司からの依頼には「NO」とは言いづらいものです。なかには、はっきり「NO」と答えられる部下もいますが、期限ぎりぎりに状況を話しにくるでしょう。

 今回のケースでは、部下が本音を言いやすいように「あと2時間で仕上げてほしいんだけど」の後に、
「他に今どんな仕事を抱えている?」(○)
「時間がかかりそうなのはどの部分?」(○)
「わからなくて困っているのはどこ?」(○)

と付け加えればいいのです。

 この聞き方は「オープンクエスチョン」であり、「YES」「NO」以外で応えるオープンクエスチョンです。

 2時間で仕上げるのを邪魔する要素、困っていることがあるのを前提に聞いているので、部下も困っている場合、正直に言いやすくなります。

 本当の状況を知ることで、誰かに手伝ってもらうなど調整ができます。決して部下の仕事のスピードが上がるわけではありませんが、安心です。

 このように、部下の「心理的安全性」を確保することで、部下が本音を言いやすくなります。表面に見えている問題だけでなく、その裏にある問題も顕在化します。結果、部下にとっての根本的な問題を把握できるようになるので、指導も的確なものになるのです。

【ポイント】
「大丈夫かな?」では「はい」しか返ってこない。不要なプレッシャーをなくし、困ったときの助け舟になるように聞いてみる