インドが内憂外患に直面している。年初から鈍化傾向にあった景気は、新型コロナウイルスの感染拡大で減速に拍車がかかっている。モディ政権は、経済活動正常化と感染封じ込めの両立を狙うが、感染収束の見通しは立たない。双子の赤字は依然解消されない上に、通貨安、中国との軍事衝突など難題が降りかかる。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
モディ政権の基盤固まるも
経済成長率は年初から鈍化
インドでは、昨年の総選挙でモディ政権を率いる与党・BJP(インド人民党)が事前予想を覆す形で大勝利を収めるとともに、モディ政権は2期目入りを果たすなど政治面では盤石さを増しているようにみえる。
なお、総選挙において与党が大勝利を収めた背景には、最大野党・国民会議派の退潮が一段と鮮明になったことに加え、隣国パキスタン領内への空爆実施などナショナリズムを扇動して「強い指導者像」を演出したことが奏功したと考えられる。
ただし、与党およびモディ政権が強い指導者像を押し出す背後で、ここ数年は同党の党是である「ヒンドゥー至上主義」が強まっており、国民の間の分断をあおる動きがみられるなど新たな懸念が出ている。
米調査会社のユーラシア・グループが年初に発表する世界10大リスクの2020年版では、5番目に「モディ化されたインド」を挙げるなど、インドの政治情勢が世界的なリスク要因になる可能性が指摘されていることに注意する必要がある。
その最大の要因としては、足元のインド経済がひところに比べて勢いを失っていることが影響していると言えよう。
インド政府は総選挙前の一昨年以降、統計の推計に関する練度が向上したとしてGDP(国内総生産)統計を突如改定し、モディ政権下の成長率を上方修正する一方、シン前政権下の成長率を下方修正した結果、モディ政権による経済政策がより成功しているかにみえるようになった。
しかし、その後も米中摩擦の激化に伴う世界経済の減速懸念に加え、インド国内における、国営銀行を中心とする銀行セクターの不良債権問題を理由とした、これまで経済成長の原動力となってきた家計消費など内需の弱含みで、経済成長率は鈍化傾向を強めている。
さらに、年明け以降は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響も重なり、今年1~3月期の実質GDP成長率は前年同期比3.1%と、世界金融危機が直撃した2009年1~3月期以来となる3%台に鈍化している。