年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。
自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』から、シーン別にNG行動・発言とOK行動・発言を対比させながらどのような言動で接したらいいかを紹介していきます。
リーダーの不正解:怒る
リーダーの正解:気持ちを伝える
報告なく勝手に仕事を進めている部下はリーダーにとって心配の種です。見えないところでトラブルが起きるのは嫌なものです。
リーダーの知らないところで何か起こったとき、リーダーの存在意義や評価まで下がる可能性があります。
何より勝手に動くのが問題なので、是正させなければなりません。
だからといって、「今何をやっているの?」と尋問するのもナンセンスです。
問題が起きるのは望ましいことではありませんが、問題が起きてしまったときは、部下の動きを是正するチャンスともいえます。
どのように対応したらいいのでしょうか。
大手旅行会社の営業部に所属するCさんは、大口顧客のEさんからホテルのバンケットルームの予約を引き受けましたが、その日は神戸市内でシンポジウムが開かれており、市内のどの会場も予約が取れませんでした。
Eさんはスピードを重視する人であり、そのうえCさんに「御社は無理を聞いてくれるから助かるよ」と常々言っています。
そこで、Cさんは周辺地域のホテルを探すように手配課に頼みます。
このとき、問題だったのはCさんの上司、手配課の上司を飛び越えて手配課のメンバーに「急いで探してくれ」と頼んだことです。
このようにリーダーに相談なく進めて、後に問題になる仕事として、「自分では決裁できない仕事」「たくさんの人員を動かす仕事」「部署を飛び越えて要請する越権行為」などがあります。
なぜ、このように勝手に進める部下がいるのでしょうか。
…>叱るリーダーであれ
Cさんのような勝手に判断する部下は、一番大切なのはお客様で、スピードを重視しているのだから、いちいちリーダーに相談するのは時間の無駄だ、それより急いで見つけなくてはならないと思っています。
このタイプの部下に対しては、第1章の中間報告に来ない部下に対するのと同じように、「相談してくれればこんな対応ができたのに」と、相談に来るメリットを伝える必要があります。
しかし、その前に必要なことがあります。
「報告に来なかったこと」を叱る必要があります。
そうでないと他の部下にしめしがつきません。
Cさんが叱られなかったら、他のメンバーが同じことをやる可能性がありますし、そこで叱ったら、不平等と感じます。
…>「怒り」より「悲しさ」で伝える
この場合、
(×)「相談なしで動くのはルール違反」
と怒るのではあまり効果がないでしょう。
特に、仕事のできる部下は「注意されてしまった」くらいにしか考えないでしょう。
ポイントとしては、「勝手にやって申し訳なかったな」という気持ちにさせることです。
(○)「Cさんのことを信頼していたのに。(報告してくれないなんて)残念だよ。Cさんがリーダーで同じことをされたらどう思う?」
と伝えます。
報告に来てくれないという怒りの裏側には本来、相手にわかってほしい、悲しい、辛い、寂しい、悔しい、不安、心配、困惑といった感情が潜んでいるのです。
しかし、怒り自体がとても強い感情であるために、そこに潜む感情にはなかなか気づくことができません。自分自身も気づかないうちに、怒りに姿を変えてあふれてしまうのです。そうなると、相手には本来わかってほしかった気持ちが伝わりません。
いわゆる怒りばかりが表面に出てしまい、部下からすると「怒られている」としか感じられず、その裏にあるリーダーの思いが見えないのです。
ですから、報告せず勝手に進めたことが残念だったと伝えるのです。このように伝えることで、Cさんのような勝手に判断する部下はリーダーに黙ってやったのは悪かったなと反省します。
その後、Cさんは自分の権限を越える業務の場合は、前もって報告に来るようになりました。リーダーも余計な心配をしなくてよくなったうえに他部署との関係も良好になり、困ったときにも迅速な対応をしてくれるようになったのです。
この「勝手に動く問題」は、人間関係がしっかりすれば解決できます。そのためには、「信頼している」ということを部下にわかってもらう必要があります。叱るときも、単に怒るのではなく、「リーダーの期待を裏切ってしまい悪いことをしたな」と思わせるような叱り方をするのです。
【ポイント】
リーダー自身の気持ちを伝えることで、部下に反省させる