2年前くらいに移転した現在のオフィスには35人分の席があった。近年、優秀な人材を確保するためには、いい立地に、広くて快適なオフィスを持つことが重要であるとされてきた。ゼノデータも、人材採用を意識して、渋谷に広くて立派なオフィスを構えていた。
コロナ危機により、エンジニア以外の社員もリモートワークにシフト。オフィスはほぼ関社長一人の状態になり、新オフィスを探す日々が始まった。他のエリアに移るとなれば、社員からさまざまな意見が出るだろうと思い、渋谷にとどまることを前提とした。
渋谷はIT系やベンチャー企業が集まる人気エリアであり、オフィス需給が逼迫していた。しかし、4月になると、スモールオフィスが入ったマンションなどでは空室が出始めていた。同じように縮小移転に動くところが出てきていることがうかがえた。
実際、ゼノデータに新オフィスを仲介した不動産仲介会社のIPPOには、縮小移転の問い合わせが激増していた。渋谷に本社を置くIPPOはスタートアップやベンチャーに特化してオフィス仲介を中心にサポートしており、こうした企業が集積する渋谷や東京・五反田などが主戦場だ。このエリアで解約ラッシュ、縮小移転ラッシュが始まった。
IPPOでは、コロナ危機前から進めていた拡張移転の案件をちょっとストップしたいという申し出が、3〜4月に相次いだ。「コロナの影響で売り上げがどうなるか見えなくなったり、資金調達を受けられるかどうか分からなくなったりで、お客さんはこのタイミングで意思決定することができなくなった」とIPPOの大隅識文執行役員は言う。
拡張移転を中心とした案件の成約は3月から減り始めた。売り上げは前月の2月に比べ半減。そのまま5月まで右肩下がりとなった。そんな中で4月になると、インバウンド需要をビジネスにしていた旅行系などを皮切りに、さまざまな業種から縮小移転の相談が押し寄せるようになった。
同社への問い合わせ件数を見ると、4月以降に縮小の相談が急増した。2〜3月は2〜3件だったものが、4月になると35件、5月には49件にもなったのだ。
新規設立や分室を含めた拡張に関する問い合わせは2月に35件、3月に32件あったが、4月は17件に減った。5月になると先行きが見え始めたのか21件と盛り返した。中には当初予定していた規模よりも抑えて拡張するケースもあった。
縮小移転の理由は業績悪化によるものもあるが、ゼノデータのように売り上げは伸びていても今後の経済状況を警戒したり、フルリモート勤務へのシフトなど働き方を見直したりするものが目立った。