『週刊ダイヤモンド』7月11日号の第1特集は、「バブル崩壊 不動産・ゼネコンwithコロナ」です。コロナ危機前の不動産市場は、高値売買が繰り広げられ、まるでバブル。そこに浸っていた不動産・ゼネコン業界をコロナ危機が襲いました。ウィズコロナ時代に形成される「ニューノーマル(新常態)」は、従来の不動産市場をぶち壊します。

フルリモートでオフィスは空に
家賃7分の1のマンション一室へ移転

 首都圏でも緊急事態宣言が解除された5月25日の翌日、AI(人工知能)開発スタートアップ企業のゼノデータ・ラボは東京・渋谷にある本社オフィスを縮小移転する契約にサインした。

 現在のオフィスは45.9坪。そこから徒歩1分ほどの所にあるマンションの一室に移るもので、新オフィスは13.35坪の1LDK。家賃は20万円台で、今の7分の1にまで減る。

 同社の関洋二郎社長は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月上旬にオフィスを大幅縮小する決断をした。3月中旬に緊急全社会議を開き、全社員に全員原則フルリモート勤務にすることと、オフィスを移転することを伝えた。

 2016年に設立された同社は目下、売り上げを伸ばしている。それでも、ウィズコロナ時代は客の財布のひもが固くなり、予算縮小の可能性が出てくることが想定された。人がいなくなるオフィスにかかる固定費を削減しようと、オフィスをなくそうとも考えたが、それは役員たちに止められた。

 30人近い社員のうち、3分の2を占めるエンジニアは、コロナ危機の前からフルリモート勤務だった。働く場所は個人の裁量に任せたところ、エンジニアは全員、在宅勤務が定着した。

 2年前くらいに移転した現在のオフィスには35人分の席があった。近年、優秀な人材を確保するためには、いい立地に、広くて快適なオフィスを持つことが重要であるとされてきた。ゼノデータも、人材採用を意識して、渋谷に広くて立派なオフィスを構えていた。

 コロナ危機により、エンジニア以外の社員もリモートワークにシフト。オフィスはほぼ関社長一人の状態になり、新オフィスを探す日々が始まった。他のエリアに移るとなれば、社員からさまざまな意見が出るだろうと思い、渋谷にとどまることを前提とした。

 渋谷はIT系やベンチャー企業が集まる人気エリアであり、オフィス需給が逼迫していた。しかし、4月になると、スモールオフィスが入ったマンションなどでは空室が出始めていた。同じように縮小移転に動くところが出てきていることがうかがえた。

 実際、ゼノデータに新オフィスを仲介した不動産仲介会社のIPPOには、縮小移転の問い合わせが激増していた。渋谷に本社を置くIPPOはスタートアップやベンチャーに特化してオフィス仲介を中心にサポートしており、こうした企業が集積する渋谷や東京・五反田などが主戦場だ。このエリアで解約ラッシュ、縮小移転ラッシュが始まった。

 IPPOでは、コロナ危機前から進めていた拡張移転の案件をちょっとストップしたいという申し出が、3〜4月に相次いだ。「コロナの影響で売り上げがどうなるか見えなくなったり、資金調達を受けられるかどうか分からなくなったりで、お客さんはこのタイミングで意思決定することができなくなった」とIPPOの大隅識文執行役員は言う。

 拡張移転を中心とした案件の成約は3月から減り始めた。売り上げは前月の2月に比べ半減。そのまま5月まで右肩下がりとなった。そんな中で4月になると、インバウンド需要をビジネスにしていた旅行系などを皮切りに、さまざまな業種から縮小移転の相談が押し寄せるようになった。

 同社への問い合わせ件数を見ると、4月以降に縮小の相談が急増した。2〜3月は2〜3件だったものが、4月になると35件、5月には49件にもなったのだ。

 新規設立や分室を含めた拡張に関する問い合わせは2月に35件、3月に32件あったが、4月は17件に減った。5月になると先行きが見え始めたのか21件と盛り返した。中には当初予定していた規模よりも抑えて拡張するケースもあった。

 縮小移転の理由は業績悪化によるものもあるが、ゼノデータのように売り上げは伸びていても今後の経済状況を警戒したり、フルリモート勤務へのシフトなど働き方を見直したりするものが目立った。

 IPPOの関口秀人社長によると、増えた案件の典型は「コミュニティーやカルチャーをつくる場所として最低限のスペースは欲しいので、今いるオフィスの半分や3分の1くらいにしたい」というものだ。

 と同時に、コロナ危機前に契約したオフィスをキャンセルできないか、定期借家契約(定借)を中途解約できないかとの相談も多い。

人気大型ビルほど
定借契約に手足を縛られる

 オフィスの契約には一般的な普通借家契約と、定借がある。普通借家契約であれば、3カ月前なり6カ月前なり、取り決めに従って事前に解約予告を出せば退去できる。だが、契約期間に定めがある定借は、貸主と借り主の合意がないと中途解約できないのが原則だ。

 大型ビルなどは定借で貸す傾向にある。近年竣工したような人気の大型ビルに入居した会社ほど、この局面において契約に手足を縛られている。

 縮小移転は、身軽で柔軟に動きやすい会社が先行する。だからスタートアップの多い渋谷、中でも道玄坂や宮益坂などの比較的小さなビルに普通借家契約で入った会社から解約ラッシュが始まった。

 もっとも、解約ラッシュがオフィスの空室率として数値に表れてくるのはまだ先。解約予告期間が終わった頃に顕在化することになるからだ。縮小移転の波がさらに大きくなって、玉突きのように空いたオフィスを埋めることができなくなれば、空室率はさらに上がることになる。

 早々に縮小移転を決めたゼノデータだが、「2年後のことは分からない」と関社長。再び立派なオフィスビルに移ることはあるのかもしれないが、「きれいなオフィスは必要でも、でかいオフィスは要らないかな。社員全員分を借りる必要はなくなってくるだろうから」。

 社員の中には、この機に地方へ移住することを考える者も出てきた。オフィス市場の変化は住宅市場の変化へと、働き方の変化は住まい方の変化へと波及していく。

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 『週刊ダイヤモンド』7月11日号の第1特集は、「バブル崩壊 不動産・ゼネコンwithコロナ」です。コロナ危機前の不動産市場は、超低金利であふれるマネーが流れ込み、リーマンショック前を超える高値売買が繰り広げられ、まるでバブルでした。そこに浸っていた不動産・ゼネコン業界をコロナ危機が襲いました。

 本特集では、不動産売買取引が凍結した瞬間から、足元の実態、今後の地価、企業経営、投資家の動きまで、とことん追いかけました。

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 ウィズコロナ時代に形成される「ニューノーマル(新常態)」は、従来の不動産市場をぶち壊します。

(ダイヤモンド編集部  臼井真粧美、大根田康介、松野友美、竹田孝洋、鈴木洋子)