何週間も取材するうちに、「だんだんこの男の話は偽物だ。ただ、誰かヤクザ仲間に聞いた話を我々にしているだけではないか」という意見が主流となってきました。しかし、そうだとしたら謎なのは、「なぜ、そこまでして謝礼も要求せずに、犯人だと自称しているのか」。それがわかりません。

 江川さんは坂本弁護士殺害の瞬間の話までされて、動揺しています。そのうち、花田紀凱編集長が、「正月明けの号に大スクープが載るから、100万部以上刷ってくれ」と、チームに内緒で営業部に指示していることも判明しました。

 部数を増やすだけで他誌に動きが漏れるかもしれず、しかもまだ信用できない証言です。編集長とケンカしますが、売り上げのためには蛙の面にションベンというのが花田さん。

 編集部も追い詰められ、最終的に男を難詰しました。「あなたの言っていることは裏をとったらほとんど嘘だ」と。すると彼は言います。「では、警察に自首する。警察なら、私に殺害を命じたヤクザをみつけることができるだろう」と。

警察も困惑しきり
呆れた男の正体

 そこまで言うのだから、一度は雑誌のタイトルが頭に浮かびました。手記「私は、坂本弁護士を拉致、殺害した」。神奈川県警に出頭するその日に記事を出せば、少なくとも本人はそう言っているのだから、間違いにはならないと。

 編集長も大量の部数を刷ることを決めている(そのための紙や印刷の台も確保しなければなりません)。「これなら大丈夫か」と思う半面、もし間違っていたら読者と坂本弁護士一家の家族に申し訳がたちません。