政界側が検察トップに据えたかったのは、根来泰周法務次官。今回の黒川氏のケースとは逆で、根来氏のほうが早く定年を迎えるため、吉永氏が総長になるとき任期半ばで引退して根来氏に渡す、という密約を提案したのです。

「ミスター検察」吉永祐介氏を守れ
メディアが協力してキャンペーン展開

 もちろん、そんなことはあってはならないこと。当時の検察記者は各社ともエース級でしたが、NHKの小俣一平記者、朝日新聞の松本正記者が中心となって、文春に詳細な情報を提供してくれます。文春は、根来氏と梶山幹事長の親密な関係を書き立てました。検察と永田町の間にNK(根来・梶山)ラインがあり、事件を潰しているというキャンペーンです。そして最終的には、週刊文春がとどめを刺しました。

 当時、話題になっていたのは皇民党という右翼・民族派団体による「ほめ殺し事件」でした。全国で、この団体が街宣車を使って竹下・金丸コンビのことを褒め称える運動をしたのです。右翼に褒められることは、政治家にとって決していいことではありません。皇民党に対して、政治家側から何億もの「沈黙料」が提示されていたことも判明しています。

 ところがそのさなか、根来法務次官が皇民党の名付けの親といわれる右翼の理論家、畑時夫氏に「お詫びの手紙」を書いていたことが発覚しました。ほとんど全文が週刊文春にスッパ抜かれ、国会で根来氏は問題にされます。これで検事総長の声は消えました。

 黒川問題では、マスコミと検察の癒着も問題視されています。しかし、賭け麻雀をしている事実や日程を文春に教えたのもたぶん、メディアの人間でしょう。私の経験上も「検事が自分の趣味に記者を同行させるのは、普通のこと。新聞記事で黒川氏の趣味がカジノと麻雀だと知ったときから、必ず番記者と賭け麻雀をしているだろうなあ、なぜ文春は追っかけないのかなあ」と思っていただけに、見事に期待に応えてくれました。

 さて、ミスター検察「吉永祐介」とはどんな人物なのでしょうか。

 検事総長就任後、私が文春時代に人事異動で着任した新雑誌にインタビューで登場していただいたことがあります。雑誌発売後に謝礼をお支払いすると、「編集部で食事でもしてください」と手紙付きで全額返金してこられました。