検察庁
官邸主導とみられる検察人事への介入問題で、政治との距離感が問われる事態に直面している検察庁 Photo:JIJI

 1992年、東京・霞が関の検察合同庁舎にペンキが投げ付けられる事件があった。正面玄関前の「検察庁」と彫られた御影石は黄色と白のペンキで染まった。犯人は現行犯で逮捕されたが、動機は「政界のドン」、自民党元副総裁の金丸信を巡る巨額の政治資金規正法違反事件への検察庁の捜査にあった。

 最終的に金丸は上申書を提出、略式起訴(罰金20万円)された。しかし、国民世論は強く反発した。

「5億円ももらって20万円の罰金なんて許せない」

 検察内部からも当時札幌高検の現職検事長が2度にわたり事件捜査を批判する新聞投稿を行った。その後、金丸は議員を辞職し、約半年後に巨額脱税容疑で逮捕、起訴された。さらに自民党は分裂、野党に転落した。高い中立性・公正性が求められる検察庁の威信は揺らぎ、政治不信は抜き差しならぬ状況に陥った。

 それから約28年。再び「政治と検察の距離感」が問われる問題が表面化した。官邸主導とみられる検察人事への介入問題だ。政府は1月31日の閣議で突如として、2月7日に定年を迎えることが決まっていた東京高検検事長の黒川弘務の勤務期間を8月7日まで延ばすことを決めた。

法務省が突如発表
前代未聞の口頭決済

 検察の人事慣行では、最高ポストの検事総長は東京高検検事長から昇任する。黒川が検事総長になるためには、現検事総長の稲田伸夫の退官の目安とされる7月まで黒川が東京高検検事長にとどまっている必要がある。そこで編み出した奥の手が「定年(勤務)延長」だ。ところが、検察庁法(22条)の規定が存在する。

「検事総長は、年齢が65年に達したときに、その他の検察官は年齢が63年に達したときに退官する」

 この条文には延長の規定はない。そこで政府が持ち出した定年延長の根拠が81年に制定された改正国家公務員法だ。

「退職により公務の運営に著しい支障を生じる場合、1年を超えない範囲内で引き続いて勤務させることができる」

 しかし、この法律が制定された当時の政府説明は「検察官に国家公務員の定年制は適用されない」というもの。検察庁法が制定されたのは49年。どちらが優先されるのかは明らかだが、首相の安倍晋三は意表を突く考えを表明する。

「検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察官の勤務(定年)延長に国家公務員法の規定が適用されると解釈した」

 ここから政府の“迷走”が始まった。安倍の発言に合わせて理屈付けが繰り返されたからだ。安倍に対する官僚たちの「忖度劇」の開幕だ。国有地売却を巡る森友学園問題で、安倍の国会答弁から財務省による文書改ざんに突き進んだことを想起させる。

「私や妻、事務所が関わっていれば、首相も議員も辞める」

 今回の検察人事もほぼ同じ経過をたどりつつある。しかし、つじつま合わせとみられる政府側の説明は破綻に向かう。まず法務省が2月20日の衆院予算委理事会に提出した文書に日付がないことが判明した。その前に法相の森雅子による「必要な決裁を取っている」との答弁の根拠が揺らいだ。

 これに慌てたのだろう。法務省の担当者は翌21日になって「正式な決裁は取っていない」と釈明。さらに21日深夜、法務省がメディアに突然の発表を行った。「口頭による決裁」という前代未聞の理由を明らかにしたのだ。