CEATEC JAPAN 2017の特別セミナーとして10月6日に開催された『DIAMOND Quarterly』創刊1周年記念フォーラム。基調講演に登壇したのは、ソニー・プレイステーションの生みの親として知られる、サイバーアイ・エンタテインメント代表取締役社長兼CEOの久夛良木健氏である。本誌2016年冬号のロングインタビューで「デジタル時代のイノベーション」について語った久夛良木氏が今回の講演テーマに選んだのは、目覚ましい進化を見せるAIだ。AIは私たちの暮らしやビジネスをどのように変えていくのか。久夛良木氏はその最新動向を交えつつ、AIと人間が共創する未来について語った。
ついに人間を超えた!
AIの画像認識能力
コンピュータが登場して約70年になりますが、その進化のスピードは速まるばかりです。膨大な数のコンピュータ群がインターネットに接続され、その後のモバイルネットの急速な普及により、既存の産業構造に大きな変革が生まれようとしています。現在はIoT、さらにはAIやロボティクスの爆発的な普及が目の前に押し寄せようとしています。
これまで人類は幾度となくAIに挑戦しては、そのつど大きな挫折を繰り返してきましたが、ようやく有用な突破口が開かれようとしています。その発端となった中心人物がトロント大学のジェフリー・ヒントン教授です。同氏が人間の脳をモデルにした「深層学習」のアーキテクチャーを2006年に発表すると、世界は大きな興奮に包まれました。従来のように人間がコンピュータにルールを教えるのではなく、機械が膨大なデータをもとにみずから学習することによって、さまざまな特徴量の抽出や状況の把握、ついには概念の取得までもができるようになるかもしれない……そんな可能性を提示したからです。
深層学習の有効性は、まず画像認識の分野で検証が始まりました。コンピュータの画像認識精度を競うコンペティション「ImageNet Competition」では、2012年の初参戦で、いきなり画像認識エラー率が10ポイント余りも向上し、現在ではついに平均的な人間のエラー率とされる5%を下回る、3%の認識エラー率にまで到達しています。
AIの適用領域で、画像認識が先行しているのは理由があります。コンピュータの能力向上はもちろんですが、クラウド上に大量の画像データが蓄積されるようになったことが大きく寄与しています。クラウドサービスを提供するプラットフォーム各社は、世界中のユーザーが、日々スマホ経由でアップロードする膨大な数の画像群を用いて、さまざまな学習実験を繰り返しているのです。
画像を生成するデバイスは、何もユーザーのスマホだけではありません。自動運転機能を有する車は、動くセンサーの集合体に変貌しつつあります。これらの車に搭載されたカメラをはじめ、多様なセンサー群は、多かれ少なかれネットワークにつながっています。
ただし、すべてのデータをクラウドに送ろうとすれば、ネットワークの回線容量やデータセンターの処理能力がパンクしてしまいます。すでに何社かのスタートアップ企業群が、この問題に着目して、ボトルネックの解消に向けて研究を進めています。今後は大脳に相当するクラウド側と、運動野を担当する神経系とのシームレスな連携が大きなポイントになってくるでしょう。