「人生を変えるのに、最も効果的なライフハックとは何だろう?」と、デイヴ・アスプリー氏はこれまで20年近くかけて、シリコンバレーの最新のラボからチベットの修道院まで、世界中のあらゆる場所に足を運んで、体当たりの自己実験で研究してきた。
さらに、脳科学、生理学、東洋哲学、心理学といった分野の専門家の他、アスリート、医師、ライフハックの達人まで、400人以上の研究者や成功者たち(つまり、世の中のルールを変える「ゲームチェンジャー」たち)に、「最も重要な3つのことをあげてほしい」と取材を重ねてきた。
そんな探求の果てにつかんだ答えを「脳」「休息」「快楽」「睡眠」「運動」「食事」「幸福」「人間関係」等の分野に体系化、1冊の「究極のハック集」にまとめたのが『シリコンバレー式超ライフハック』(デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳)だ。
著者自身、「20年前にこの本に載っていることを知っていたら、どんなに人生が違っていただろう」という衝撃的なハックが目白押しの本書から、一部を編集し紹介したい。
求めても逃げていく「条件つきの幸福」
どうすれば幸せになれるか、あるいは幸せになれないか、ゲンポ老師以上に知っている人はいない。曹洞宗と臨済宗の両方の禅僧であり禅師である。45年以上にわたって、ものごとの本質を見抜く知恵を人びとに伝授し、自らも悟りを開くべく修行を続けている。
ゲンポ老師は、状況に左右されない、何があっても持続する幸福というものがあると言う。その境地に至れば、幸福という土台の上に人生を築くことができる。
他方、外部要因に左右される、条件つきの幸福もある。「~だったら、私は幸せだ」という考え方の幸福だ。「理想の相手と結ばれたら幸せだ」とか、「昇給すれば幸せだ」「昇進すれば幸せだ」という類いの幸福である。
「幸か不幸か」は考え方の問題?
僕はこの手の幸福を何年も追いかけていた。26歳で600万ドルを稼いだとき、同じように突然の富をつかんだ友人に、「1000万ドル稼げたら、きっと幸せになれる」とさえ言った。穴があったら入りたい。2年後にすべてを失ったとき、ストレスは悪化したが、幸福感には変化がなかった。そんなときでも幸福だったということではなく、大金を稼いでいたときも全然幸福ではなかったということだ。
持っていないものを追求することによって得る「条件つきの幸福」は、真の幸福ではない。何を得ても、まだ持っていないものに意識が向かうからだ。そのような幸福は、目の前にぶら下げられたニンジンのようなもので、絶対に手が届くことはない。
幸せになりたければ、いまあるもの、いま置かれている状況に満足しなくてはならない。ゲンポ老師はお金はもう十分あると気づいたとき、求めるのをやめたという。裕福ではなかったが、もう十分だと思ったのだ。
「追求をやめて現状を受容したら、以前より幸せになり、多くのことを達成することができた。精神的自由や身体的自由を含め、わずかなものがあれば人は幸せになれる」とゲンポ老師は言う。生存すら危うい状況では幸せになれないが、不安のストレスから解放される程度のお金さえあればよいのだ。
それは不可能な話ではない。僕はビジネススクールを修了後、カンボジアに滞在したことがある。当時の国民の1日の平均収入は約1ドル、戦争の傷跡も残っていた。地雷のせいで手足を失った人も珍しくなかった。食事にも事欠きがちな暮らしであっても、人びとの表情は幸せそうで、僕は謙虚な気持ちにさせられた。事実、彼らの多くは僕よりも幸せそうだった。
彼らの幸福感はどこに由来しているのか? 共同体の意識、家族、あるいは思想信条から来ていたのかもしれないが、断じてお金からではなかった。それまでの僕の体験からは、戦争で疲弊した国の人びとがこれほど幸福感と回復力を持てるとは信じがたかった。
「人生に満足できる年収」はいくらか?
欧米諸国において、幸福を感じられる年間所得の最低額はいくらかを調べる研究がいくつか行われている。2010年にプリンストン大学が行った研究では「7万5000ドル」という結果が出た。年収がこの額を超えれば幸せを感じやすく、人生に満足できるということだ(*)(金額は住んでいる場所や物価変動によっても前後するだろうが、金銭的安心感について考える際の参考値として使うことはできる)。
所得がこれを下回る人びとが生活を嘆いているわけではないが、それを超える収入のある人と比べると、基本的ニーズの不足を心配することからくるストレスと疲労感を覚えていることが多い(どんな理由であれ、ストレスはゲームチェンジャーになるのに必要なエネルギーを奪う)。
しかし、この研究のいちばん興味深い点は、7万5000ドルを超えて基本的ニーズが満たされてしまうと、さらにいくら上乗せしても幸福感のレベルは頭打ちになることだ。基準となる金額がもっと高く出た研究もあるが、どの研究でも、一定額を超えれば、それ以上いくら収入が増えても幸福感はたいして変わらないという点では一致している。
「いつかやりたい」ことをいまやってしまう
仕事と人生から得られる本当の醍醐味は日々の歩みの中に、人との出会いやつながりの中に、他者に対する貢献の中にある価値なのだ。要するに、荒波を蹴立てて船を進ませても、その航海が無意味で楽しくなければ、いつかは船底に穴が空いて沈むだけということだ。
リッチになりたいと思うのはかまわない。しかし、それで幸せになれるわけではないことは忘れないでおこう。
基本的ニーズが満たされたら、それ以上物質を追求するのをやめよう。お金で幸せになることはできないからだ。あなたの場合、基本的ニーズを満たすのに年収はいくらあればよいだろう?
明日、その2倍の額が手に入って、生活の心配がなくなったら何をしたい?
その答えの中に、何があなたを幸せにしてくれるかのヒントが隠されている。お金が入ってくるのを待たず、いまからそれをしよう!
人生はゴールにではなくプロセスに集中しよう。道中を楽しめなかったら、目的地に着いても幸せにはなれない。
(本原稿は、『シリコンバレー式超ライフハック』〈デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳〉の内容を抜粋、編集したものです)
*Daniel Kahneman and Angus Deaton, “High income improves evaluation of life but not emotional well-being,” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107, no. 38 (September 21, 2010): 16489–93; http://www.pnas.org/content/107/38/16489.