なぜ私たちには意識があるのか?この問いについて、「クオリア」というワードを鍵に挑んできた脳科学者・茂木健一郎氏が、16年ぶりに「意識」「クオリア」とがっぷり四つに組んだ新著『クオリアと人工意識』(講談社現代新書)を出版した。なぜ今、長年の沈黙を破ったのか?茂木氏の真意に迫った。(聞き手/ライター 正木伸城)
藤井聡太棋聖は
AIと人間の共存のモデルケース
――新著、興味深く読みました。「意識」や「クオリア」そのものに真っ向から取り組んだ著作はここ16年間、ありませんでした。なぜ、いま筆を執ったのでしょうか。
一番大きな要因は、ここ数年の人工知能(AI)ブームです。僕自身かつて、数理物理学者ロジャー・ペンローズの本を読んで人工知能に興味を持ち、そこから脳科学の研究に入っていったんです。人工知能がきっかけだったんですね。
ここ十数年の間でも人工知能は相当、進展していて、「私たちの生活を根底から覆すかもしれない」「人間の仕事を人工知能が奪っていく」と言われている。僕は、人間と人工知能はうまく共存すべきだと思っていて、その道筋に、ある意味で“補助線”を引くつもりでこの本を書きました。