世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が7月30日に発売される。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式などを使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
 ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものであるはずである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。
 神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」 松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛された本書の発刊を記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に書き下ろした原稿を掲載する(全7回予定)。連載のバックナンバーはこちらから。

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アメリカ国内の外出禁止令

 新型コロナウィルスの影響で日本も自粛期間を経験し、それが開けた今も自宅でリモート勤務をしている方は多いのではないだろうか。出社すべきかどうか悩んだり、出社を強要される雰囲気に不満を感じられたりしている方もいるかもしれない。

 たとえばあなたが出社することに決めたとして、もしくは出社せざるを得なくなったとして、一回の外出で果たしてウィルスに感染するかどうかを、どのように考えたらいいだろうか。そんなことを考えながら、本稿に付き合っていただきたい。

 日本の緊急事態宣言は約1ヵ月で終わったが、私の住むアメリカ・カリフォルニアでは未だに「Shelter in Place(外出禁止)」命令が解けておらず、発令から既に4ヵ月以上が経つ。

 しかもこれは「あくまで自粛であり、自己判断で必要とあらばどこへでも外出していい」わけではなく、行政からの「命令」なので、勝手気ままなことをしているのを見つかった日には、罰則を受けることになる。以前も、近所でソーシャル・ディスタンスを保たずに立ち話をしていたら警官に捕まった、という話を聞いた。

 ここまで書くとアメリカは恐怖の地に思えるかもしれないが、基本的には気楽なものである。必要不可欠な職務に就く市民(病院関係者、スーパーの店員、など)はもちろん外出して仕事をすることが許されているし、レクリエーションや運動のために外に出るのも構わない。

 最近ではシングルス限定で、テニスをするのも大丈夫になった。残念ながら大学教員がオフィスに出向いて研究に没頭することは、必要不可欠な職務とは考えられていないので、私は自宅で研究に励んでいる。私の専門は「ゲーム理論」といって、これは、人々が他人の行動を読み合いながら行動するときに何が起きるかを分析する、経済学の一分野である。

 さて、通常時なら仕事や学校など平日に外に出られるのにもかかわらず、それらの機会が失われているので、どうしても運動不足になる。外の空気を吸いたい。というわけで、週末には何かしら外出をしようということになるのだが、ここで困るのが、「あまり人が多いところに行くと、ウィルスを移される可能性があるのでよくない」ということだ。

 「だったら人の少ないところに行けばいいだろう」と思われるかもしれないが、魅力的な場所ほど人が集まるわけなので、行く場所の魅力と人出の多さとを、うまくトレードオフしなければならない。

 このトレードオフにおいて肝要なのが、外に出た場合の感染確率をどう見積もるか、だ。もちろんそういった確率を実際に細かく計算したりはしないので、だいたいの感覚で考えることになる。

 一つの考え方は、現在の感染者の人口に占める割合をインターネットで調べて、それをもとに判断を下す、というものだ。たとえば現在人口の0.1%が感染しているのなら、外出先ですれ違う人の0.1%が感染しているだろう、ということだ。

 そしてすれ違った末に実際にウィルスが移る確率をこれに掛け合わせる。この確率は何かよく分からないが、とにかくかなり低そうだ。(大体こういったことを考えて、外出するかどうかを決める。再度書くが、もちろんおそらくほぼ全ての人は、この確率の計算を頭の中で意識的にするわけではない。しかし私たちの感性は、こういった原理に従った行動決定を遺伝子レベルでしているのである)。