世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が7月30日に発売される。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式などを使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものであるはずである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。
神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」 松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛された本書の発刊を記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に書き下ろした原稿を掲載する(全7回予定)。
候補者の選挙行動とゲーム理論
2020年7月5日に行われた東京都知事選は、現職の小池百合子氏が圧勝し、引き続き都政を司ることに決まった。新型コロナウィルスの影響で、小池氏をはじめ街頭演説を控える候補者が出たり、大規模集会をしている候補者が批判にさらされたりするなど、選挙戦の様相は通常と趣を異にしていた。
どのような選挙運動をすればいいのか、何が正解か世間でコンセンサスが取れていない中での選挙活動には、候補者諸氏としても頭を悩ませたのではなかろうか。
皆さんが「選挙」と聞いて真っ先に想像するのは何であろうか。選挙カーかもしれないし、街頭演説かもしれない。テレビの開票速報かもしれないし、投票会場かもしれない。
では候補者としては、「選挙」と聞いて何を想像するだろうか。これは私も今の今まで想像したことがなかったが、もしかしたら投票日の開票結果待ちの緊張かもしれないし、投票日に至るまでの長い選挙戦の苦労かもしれない。
何にせよ、投票日だけではなく、そこに至る過程も候補者にとっては重要そうである、というところは想像に難くない。それは、選挙戦の過程での頑張り次第で、投票結果が変わるからだ。否、変わるかは分からないが、変わると候補者は信じているから、選挙活動に精が出るのであろう。
候補者たちの選挙における行動は、ゲーム理論で古くから分析対象になってきた。「他人の出方を伺いながら自分の行動を決める」状況の分析に役立つゲーム理論がなぜ使われてきたのか。その理由がこうだ。
候補者たちはマニフェストを決める際に、ただ単に自分の理想を述べるわけではないだろう。有権者からできるだけ票を得られるマニフェストにして、かつその際に、他の候補者のマニフェストを鑑みる必要がある。
たとえば小池氏圧倒的有利の状況で、小池氏のマニフェストの内容をそっくりそのまま自分の政策提言として発表しても、十中八九当選しないだろう。小池氏のマニフェストをよくよく吟味し、それに不満を持ちそうな有権者に対して訴求力のある政策を提言する必要がある。
もちろん小池氏の方もそのように分析されることは分かっているので、他の多数候補の動向を気にしながら、マニフェストの設計に十分気を使う。