昨年11月に刊行された『共感資本社会を生きる』は、既存の日本の社会システムに閉塞感や疑問を感じる人々から大きな反響を呼んだ。著者の新井和宏氏と高橋博之氏は、「お金」や「食」の観点から行き過ぎたグローバル資本主義に警鐘を鳴らす。今回は株式会社eumoの新井和宏氏が「共感資本」をキーワードに、不確実性が高まる「withコロナ」の時代を生きるヒントと、7月からサービスを開始した共感コミュニティ通貨「eumo」について語る。(取材・構成 高崎美智子)

「本物」は不況の時に光る

――今回世界を襲った新型コロナウイルス(以下コロナ)は、リーマン・ショックを超えるダメージを社会にもたらしていますが、新井さんはどのように受けとめていますか?

新井和宏(あらい・かずひろ)
株式会社eumo 代表取締役/鎌倉投信株式会社 ファウンダー
1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。
2008年11月、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍。
2018年9月13日、共感資本社会の実現を目指して株式会社eumo(ユーモ)を設立。

 リーマン・ショックは、実体経済とかけ離れたレバレッジを幾重にもかけた金融デリバティブの問題でした。ところがコロナは感染症なので、誰もが当事者になりました。社会や経済に与えたインパクトも大きく、事業者の方々も大変な状態が続いていますよね。ただ、鎌倉投信時代から僕が確信を持っているのは、「本物は不況の時に光る」ということ。景気がよい時には、有象無象の偽物も光ります。不測の事態が起きた時こそ、本当の価値がわかるのです

 なぜ、「本物」は不況の時に光るのか? 理由は2つあります。

 まずは「準備」。素晴らしい経営者は、平時から備えています。世の中、浮き沈みは繰り返すものだと考えて行動しています。今回、製造業のなかでも、本来の業務を切り替えて、医療用具を作った会社もありましたよね。緊急時でも社会の期待に応える用意ができているか? 事業を継続するために、自分たちが変化できるか? 必要とされる時に、必要な役割を果たせる人であり、会社であることが大切です。

 もう1つは、「共感してもらえるビジネスか?」ということ。たとえば、医療従事者や飲食店を応援しようと、たくさんのクラウドファンディングが立ち上がっていますよね。こういう状況になればなるほど、「みんなが応援したいかどうか?」が事業継続の分かれ目になります。これまで共感してくれるファンを作ってきたか? 手がけている事業はこれからの社会に残したいと思ってもらえるものか? みんなちゃんとプロセスを見ていて、共感できるところに支援やお金は集まっていく。少なくとも「儲かるか、儲からないか?」ではなく、「残したいか、残したくないか?」で淘汰されていくと思います

 コロナでは三次産業が大きな打撃を受けました。これまでの災害では、一次産業の被害が多かったけれど、今回は「逆」ですよね。その違いは何を意味するのか? これは考えさせられるメッセージだと思います。今の産業構造はあまりにも偏っていて、「自然」や「いのち」から遠ざかり、高次の産業になるほど、「不要不急」なものが多くなるわけですから。都会にすべてが集中している不自然さを、コロナは問いかけているのかもしれません。どんな時でも、必要とされる自分でありたいと感じるならば、半分「不要不急」にならないことを考えておくのも大事だと思います。最初にくるのは、やっぱり「農業」でしょうね。

不確実性が高い時代こそ、「共感」はソリューションになる

――「不要不急」ではないことに、ふだんから関心を持つことが大事なんですね。

 僕たちが生きるために必要不可欠なインフラを支える人たちの存在を、コロナは浮き彫りにしました。僕が希望を感じるのは、多くの人たちが医療従事者やエッセンシャルワーカーのみなさんに想いを寄せていることです。感謝をし、応援して、自分にできることをしている。その根底にあるのは「共感」です。

 今はみんながそれぞれの想いで応援していますが、そのうち「共感疲れ」という言葉が出てくるかもしれません。お金を出せる時はいいけれど、今後、感染拡大が繰り返して危機が長期化した場合、資金の出し手がいなくなる可能性もあります。僕たちが考えているのは、さらにその先です。コロナが終息してもしなくても、持続可能な社会のメカニズムや「共助」の仕組み化をみんなで考えていくこと、それが本当のセーフティネットになると思っています

 たとえば、お金やトイレットペーパーもそうですが、人間は不安があると貯めようとするんですね。不安から買い占めが起こると、お金があってもモノが買えない状態になります。都会の人は、何でもお金だけで解決しようとしすぎている。昔はひとつ屋根の下に大家族で暮らし、お醤油が足りない時は隣近所に分けてもらっていたでしょう。

 でも、今は核家族化して「大きな家族」を想定できなくなったんですね。マンション全体でトイレットペーパーの在庫を分けあうという発想がなくて、自分でなんとかしようとするから、足らなくなる。「人が人に頼れない」ことが不安の背景にあるわけです。だから、貯めることにしがみついてしまう。そう考えると、今の社会には「共助」が足りない。不安を解消するためには、みんながみんなを信じられることが大切です。お金で解決するのではなく、どれだけみんなを信頼できるか? そういう関係性を広げていくことがソリューションになります。「奪いあう」社会で生きるのか、「分かちあう」社会で生きるのか。それが今、試されているんですね。