「わかりやすい正義」の影で息をひそめるグレーな存在
海外文化を摂取するなかで、そこに薬物を伴うこと自体は今に始まったことではない。しかし、「インターネットによる個人輸入」に象徴されるように、入手方法が多様化したことで、違法ドラッグと比較すると、社会に分散した不可視な「在庫」が用意される結果となった。
さらに、その「在庫」は、繁華街に設けられた小さな店舗やインターネットを通して、制度のイタチごっこに対応するために在庫を入れ替えながら、こちらも違法ドラッグと比べると広範に浸透しているのだ。
40代の違法組織関係者は、次のように語る。
「うちのガキたち(正式に組に登録していない若い衆)が(脱法)ハーブを扱うようになったのは1年半前かな。店舗は出してない。ネットで売ってるね。オレたちが命じて売らせてるわけじゃない。こういう次から次に出てくる最新ドラッグがどうこうなんていうのは、オレたちでもよくわからない。分かりやすい『シャブ』や『大麻』なんかとは系統が違う。若い、クラブで遊んでるような不良たちが最新情報を持ってて、そいつらがオレのところに話を持ってくるんだ。『今度、こういうドラッグを扱おうと思ってるんですが』ってね」
「最初は渋谷に店舗を出したいと相談があったんだが『それはやめろ』と言った。つまり、既存の(違法)ドラッグと競合しちゃうと、昔から飼ってるバイニンが食えなくなっちゃうからさ。でも最近の状況を見てると、意外と食い合いにならなくなってる。売る側も買う側も、非合法やるヤツはやっぱりとことん非合法でさ。合法やってるヤツらとは実はそんなに重ならない。ネットで売ってるヤツもほとんどが素人。そこにいちいち口を出すなんてことはない」
「(脱法)ハーブなんて、言ってしまえばシャブなんかよりも利が薄いし、面倒なんだ。ヤクザが組織的に売買を仕切るなんてことはめったにないな。直接仕切ってる店もあるだろうけど、下っ端の小遣い稼ぎだよ。組織をあげてという話にはならない。若い不良の小遣い稼ぎ。これが基本じゃないかな」
この連載で幾度となく示してきた考察と重なる部分も大きいが、それを繰り返さないわけにもいかない。
経済が発展して、科学技術が発達する一方で進む、情報化、デフレ化、そしてグローバル化などと呼ばれる動き。必然的に進む変化のなかで、「わかりやすい正義=純白」を確保しようとすればするほど、不可視な、あるいはある層の人がはまり込んで抜け出せない闇が誕生する。
かつては、明確な補助線の中に「あってはならぬもの」が「確定的」に存在した。しかし、補助線によって規定される社会のあり方は変わり、インターネット上のサービスにおける「β版」(完成に向かい進化を続けるが未完の状況にあるもの)の如く、常に更新され続けている。
そして、補助線の向こう側に行くために乗り越えなければならない障壁は低くなったように思える。その一方で、補助線の向こうで起こる出来事は、より周縁的に、「あってはならぬもの」がさらに「不確定」に存在するようにも見える。