10年近く前から「脱法ドラッグ」は流通していた

 そもそも、この「脱法ドラッグ」の起源はどこにあるのだろうか。

 近代以前の社会においても、幻覚作用を持つ薬物は呪術の場面等で用いられてきたため、ドラッグと人間をつなぐ歴史のすべてについて、ここで十分に触れることはできない。そこで、2001年の芸能人によるマジックマッシュルーム使用疑惑や、先述した2009年の押尾学事件という「脱法ドラッグ」有名事件がいくつも起こった、ここ10年に話を絞ろう。

 近年騒がれている、(1)法的に規制される範囲の外にある、(2)ある程度高度な化学技術を用いて製造されている、(3)従来の違法薬物の顧客である「カネ持ち」や「暴力団」といった特別な層だけではなく一般市民にも浸透している、という3つの特色を持つ「脱法ドラッグ」に話を限れば(もちろんほかの起源も並行して存在するはずだが)、例えば以下のような話が参考になる。

 渋谷区で洋服店を営んでいた40代の男性は語る。

「ハーブが街でおおっぴらに売られるようになったのは2年ぐらい前だけど、原宿とかのファッション業界、六本木とかのクラブなんかで遊んでる人間の間では、もうだいぶ前から出回ってたよね。5年以上前から、やってるヤツはいた。ただ、『脱法』とか『合法』とか、今みたいに肩書きはなかった。『ジョイント(タバコのような形で吸引する)のケミカルハーブ』、ただそんな感じで思ってたね」

「脱法ドラッグ系は、裏原宿でショップやってるヤツとか、バイヤーがさ、ヨーロッパとかアメリカとかに行くじゃない?そういうときに買い込んできたり、あとからネットで取り寄せたりして、最初はごくごく仲間うちでやってたよね。クサ(大麻)よりも全然安いし、けっこうガツンとくるよね~って感じで。それが、だんだん商売になっていった感じかな」

「オレの知り合いの洋服屋もネットでハーブショップ開いたりしてたね。3年前かな。基本的に個人輸入が中心だよね。最近はそれ専用の部屋で独自に調合して売ってるヤツらもいるけど、そんなの面倒じゃん。だからアメリカ、ドイツ、イギリス、オランダとかから輸入する。日本製もあるけど多くはないね」

 一方で、渋谷や六本木、ロンドンなどでDJをしている30代のツトムは、「脱法ハーブ」を2000年代の初頭から服用していたと証言する。

「レイブあるじゃないですか(音楽のもと大きな会場で夜通し踊り続けるイベント)。オレの場合、ヨーロッパ各地に90年代半ば頃から行ってたんですけど、最初の頃は、普通に草(大麻)かエクスタシーがメインだったんだけど、2000年代初頭くらいからスパイスとかって呼ばれる(脱法)ハーブが出回りはじめた。っていうのは、レイブ自体がヨーロッパで非合法パーティーって呼ばれ出して、ドラッグの温床とかって騒がれ出して、警察の目が厳しくなったんだよね。それで、(脱法ハーブが)出てきたんだと思うね」

「はじめてやったのはドイツで開かれた野外ダンスフェス。あ、これはいわゆる違法なレイブじゃなくて、普通の音楽フェスね。2001年だったと思う。そこで周りのヤツから回ってきたの。ジョイントで。最初は草かなって思って一口吸ったら、全然味が違うし、キマりかたが違う。すぐに『あ、ケミ入ってるな』ってわかりましたよ」

「まあ、そんな感じで、最初は音楽系のカルチャーが脱法ハーブの始まりですね。ほとんどのドラッグはそうだと思うけど、今や、歌舞伎町とか、いわゆるダサい繁華街でヤンキーが売ったり買ったりしてますけど、オレたちから見たら『遅いっちゅうに』って感じでね。今頃ニュースとかで騒いでるのも妙な感じ。『今頃かよ』ってね」